夕食時にはだいたい酒を飲む。外食するとき以外はビールを口にしない習慣が身についたので最近は焼酎、日本酒が中心でごく稀にバーボン。早く酔える種類を好むあたりは貧乏人の性なのかも。仕事始めの水、新聞作成前日の木金はそう深酒をしないが、ひと区切りがついた土曜、そして翌日が休みの日曜は酒量が確実に増える。土日にチビチビ酒を飲むときのパートナーはＦＭ放送が果たしてくれる。京都に引っ越して丸３年過ぎたが、当初はどの局にどんな番組があるのかさっぱり判らず古いＣＤを聴いたりしていた。環境に慣れたことである程度は傾向が掴めたが、最近はＤＪがやたらフリートークを展開する番組が多く閉口。“個人的なつまらん話はいいから音楽をかけろ、音楽を”とボヤきながら思い出すことがひとつ。それはこのコラムに対して読者の方から時々届く“馬の話を書いて欲しい、馬にリンクした話を”とのお叱りメールである(汗)。

　最近よく聞くのは金土の19時にスタートする地元局の番組。私よりひと回り歳下の男性ＤＪがコテコテの関西弁を駆使して土曜はロック、日曜はポップス中心にリクエスト曲をかける構成。その喋りはまるで落語家みたいでお世辞にも垢抜けた雰囲気とは言い難いが、年輪を感じさせるギタリストで流れる曲には渋いと唸るものや懐かしいものが少なくない。まずオープニングテーマとしてJeff　Beckのギターソロが流れ、突然Jimi　Hendrixのギターが響き渡ったかと思うと次にはThe Bandの名曲が流れたり。オッサン洋楽ファンにすれば気持ちが弾んでついつい酒も進んでしまう。先日はThree　Dog　Nightの“An　Old　Fashioned　Love　Song”がかかってもう完全に悶絶状態。個人的には単なる流行り歌の範疇と思っていたのに、いざ耳にすると当時の記憶や時代背景が甦って感傷的になってしまった。誰にでもこういった曲は幾つかあるのだろう。

　競馬と結びついて記憶に残った曲というものも幾つかあるが、私にとってその代表的なものが“あの日に帰りたい”だ。荒井由美(その後に松任谷姓)さんのヒット曲だが、個人的に彼女の曲にはほとんど関心がない。しかし、知人からもらったテープに1975年阪神３歳Ｓのレース実況を録音して再生すると、消したはずの“あの日に帰りたい”が低いレベルで残っており、まるでレース実況のＢＧＭのように綺麗に調和していた。つまり、“外からテンポイント、テンポイント先頭”のアナウンスの直後に“♪青春の〜後ろ姿を〜♪人は皆忘れてしまう〜♪”と続き、“見てくれこの脚、これが関西期待の星テンポイントだ！”の声が途切れた瞬間に“パ〜♪、パパパパパパパ、パ〜パパパ〜♪”とスキャットが流れる。部分消去が難しくて結局はそのままで繰り返し実況を聴いていると、いつの間にかこの曲のフルコーラスを覚えてしまった。そして、この“あの日に帰りたい”のメロディーが流れてくるといつも1975年の阪神３歳Ｓの直線を思い出している。

『昭和53年３月５日に関係者、ファンに惜しまれながらテンポイントが早逝しました。
　 早いもので32年が過ぎ、33回忌を迎えます。
　 高田オーナー(夫人)のご厚意により、カップなど優勝記念品もご覧頂ける回顧展です。
　 テンポイントの冥福を祈りますと共に、在りし日の勇姿を偲んで頂きたくご案内申し上げます』

　数週間前に写真家の久保吉輝さんから道頓堀のDTclub(http://www.dt-club.jp)で３月５日から21日まで“テンポイント展”をするとの葉書をいただいた。私がこの仕事に就いて今年の４月で丸33年、つまり入社した翌年にテンポイントがこの世を去った。当時の久保さんがどんな写真を撮っていたのか大いに関心があり、絶対行くと決めたのだが、日程等の説明を読んで愕然。月火が休館で水〜日は12時〜18時までとなっているのだ。私の休日も月火で、出勤日にあたる水〜日の夕方５時台に道頓堀へ辿り着くなどまず無理。Ｗ開催が続く今度の日曜が最終日となっており、もう絶望的。時間ができればDTclub行きをとまだ諦めていないが、週末に道頓堀・難波WINSに出掛ける予定の熟年ファンの方には是非足を向けることをおすすめすしたい。

競馬ブック編集局員　村上和巳