京都記念ライヴ観戦
単独開催のせいか先週は通常業務の進行が早く外部からの入稿もスムーズ。土曜朝の段階で私が担当する週刊誌用の原稿の大半が処理済みとなった。こうなるともうやることはひとつ。よっしゃ、競馬場へ行くぞ!ということで20日の午後から競馬場に繰り出した。この日は昨年の有馬記念の1、2着馬が出走する京都記念がメイン。トレセンの馬房で何度か顔を撫でたことのあるブエナビスタだが、レースをライヴで見たことがない。この馬が土曜日に出走することは今後まずないだろうと考えて京都競馬場へ向かった。
「うわあ、久しぶりっすね。ずっと見かけなかったけど、どこへ行ってたんですか?」
検量室の近くで突然背後からSクンにハグされた。まるで行方不明者を発見したかのような大袈裟な言葉が“天然”と揶揄される独特のキャラクターで売っていた彼らしい。「ここ何年か世界を放浪してた」と中田英寿を意識したジョークで応じると、「そうだったんですか!」と目を丸くするが、勿論そんなはずもない。現役時代はG1(1994年、秋の天皇賞)を勝ったこともあれば、交流競走の騎乗依頼を完璧に忘れてすっぽかし、大目玉を食らったこともある彼。真っ直ぐで嫌みのない性格は誰にでも好かれていた。いまは調教助手として日々馬づくりに専念しているが、40歳を越えたとは思えないほど若々しく屈託がない。
それからはすれ違う関係者に次々とアドリブを飛ばした。「コスチューム見て笑っちまった。よく似合ってたぞ」と声をかけたのは和田竜二騎手。藤田騎手のブログでアニメ・ドラゴンボールのキャラクターになり切った彼と岩田康誠騎手の写真を見つけて吹き出したのだが、「ええ、ついその気になって」の言葉はあくまで謙遜。素人離れした雰囲気の写真が示すように関西騎手界で1、2位を争う芸達者な人間だ。いい歳をしてこのアニメを知っている私も問題だが、まあ息子が少年時代に嵌っていた影響ということにしておく。
「明日どんなパフォーマンスが見られるか楽しみ」と振ったのは佐藤哲三騎手。「うん、見てて」と返す言葉は少なくとも、頷く表情に自信が漲っていた。終わってみれば他馬をまるで寄せつけずに完勝。エスポワールシチーとともにいよいよ世界の舞台へ踏み出す。競艇ファンとして知られ、常に見守る側の気持ちを大事にする彼が日本の競馬ファンの夢を背負ってドバイワールドCでどんなレースをするのか興味深い。それからも1時間ほど検量室付近を徘徊したが、考えてみれば競馬関係者にとって開催日の競馬場は神聖な職場。お気楽オヤジの相手をさせてはいかんと深く反省。途中から6階記者席に上がってレース観戦に専念した。
京都記念はパドックまで足を運んで各馬をじっくりチェック。ブエナビスタは12キロ増だったが、もっとフックラしていいぐらい。見た目の印象は相変わらず地味だが、この体で走るのだからもう能力が高いとしか言いようがない。ドリームジャーニーはそれなりの気配。京都コースで59キロを背負ってどれだけ走れるかだが、馬格を考えると条件は楽ではない。これなら取り消し明けでも出走に踏み切ったジャガーメイルが怖いと思ったが、脚捌きが硬く映る。結局はこの3頭にホワイトピルグリムを加えた4頭に絞って馬券を買った。
最終的に選択したのはブエナビスタ1着固定の3連単。残る2頭もちゃんと選んでいたが、返し馬を見てジャガーメイルを3着に固定したのが大失敗。馬券を買う場合にはある程度点数を絞ることが必要だが、絞りすぎるとこうなるという悪い見本になってしまった。しかし、馬券成績を別にして、久々のライヴは楽しかった。パドック、そして本馬場入場後も京都競馬場はG1並みの熱気に包まれた。直線の叩き合いで湧き上がる歓声も凄かった。レースの売り上げも前年比で230パーセントを超えた。強い馬が出走して見応えのあるレースをすればこれだけ競馬が盛り上がるという当り前の風景がそこにあった。ファンは正直である。
競馬ブック編集局員 村上和巳