「競馬ブック週末版(土日の新聞)の各レースの一番右上の欄に“上位拮抗”“波乱含み”“伏兵多し”“混戦模様”とか、いろいろ書いてありますが、あれは一体誰が決めているんでしょうか?それと、種類はどれぐらいあるのですか?また、それにまつわる秘話があれば教えてください」
社内ではカットと呼んでいるこの四文字熟語はそれぞれの本紙担当者が想定メンバーをチェックした上で個々のレースにふさわしいものを選んでいる。競馬ブックでは今年から担当者名を明記しているので、紙面をご覧になれば誰が書いているか理解してもらえるはず。カットの数は30種類あるが、実際に使われるのはその3割程度。使いやすいものとそうでないものがある。“秘話”と言えるかどうかはともかく、まず使用しないものに“本命不動”がある。文字通り“この馬以外に本命は考えられない”“軸はこの馬しかいない”という場合に使う訳だが、不思議とこのカットを使うと本命馬が凡走する。私自身も短期間ながら本紙を担当していた時期があり、そのときに“ジンクスを破ってやる!”と“本命不動”を使ったところ、単勝で2倍を切る人気馬が発馬で落馬寸前になって4着。“本命は動かず”ではなく“本命は動けず”になった。勝負事に関わって生きている人間は験を担ぐタイプが多く、このカットはほとんど使われないまま現在に至っている。
「船橋の張田京騎手が2月19日に園田競馬場で行われるゴールデンジョッキーC(全国で2000勝以上の勝ち星を挙げている騎手12人を選抜して勝ち負けを競う)の代表に選ばれながら、後日にその騎乗を辞退しました。我々園田競馬ファンを馬鹿にしているとしか考えられませんが、どう思いますか」
同じような内容のメールが他にも1件あった。本来なら船橋競馬の方に問い合わせていただくべき問題なのかもしれないが、昨年春から南関東地区にも競馬ブック当日版が出回るようになったことでもあり、南関編集部に連絡して真相を調べてもらった。張田騎手と個人的な付き合いはないが、おそらくやむにやまれぬ事情があってのことだろうと想像していた。結果はその通りで「ゴールデンジョッキーC当日に、今年のクラシックを目指す彼のお手馬が地元で出走することになり、残念ながら騎乗を辞退したもの」と南関編集部から迅速な返答があった。すぐに問い合わせてきた2名の方に裏事情をメールで説明。地元園田を愛する気持ちが強いからこそ憤慨されていたようだが、それぞれが「騎手の立場や事情を配慮せずに抗議したけど、どうやら誤解でした」「来年、張田騎手がきてくれたら応援します」と納得してくれた。ファンに園田だ船橋だ、そして中央だ地方だといった地域の区切りは必要ない。みんな競馬が好きなのだから。
読者と言えるかどうかはともかく、先週水曜日に中竹和也調教師からも電話をいただいた。週刊競馬ブックの記事を読んで担当のライターに是非アドバイスしたいことがあるという。いかにも彼らしい好意的な申し入れに感謝して、その趣旨を担当者にメールしたところ、「勉強になりました」との返事があった。競馬好きな読者の皆さんにも参考になると思うので、同師が伝えてきたメッセージをここで紹介しておこう。
「記事の内容から“去勢=気の荒さ(悪さ)の解消”が一般的な認識のようですが、競馬サークルにおいて、それはごく一部。もっと多くの目的で去勢が行われていますのでその実態を説明しておきましょう。
☆中年太りの解消(予防)……ともすれば太りがちな体質の馬に対して施される。頭の後ろ、つまり首の付け根の部分に余分な脂肪がつくのも予防できる。 ☆筋肉を柔らかくする……生まれつき筋肉の硬い馬を去勢することによってホルモンバランスが崩れ、筋肉が柔らかくなるケースが多い。結果的にコズミ解消や故障を減らすことにもつながる。 ☆完歩(ストライド)が伸びる……股間にぶら下がっているものがなくなることによって走りが伸びやかになり、完歩が大きくなる。イギリスの障害で去勢馬が多いのはこのため。
海外でも日本でも、多目的で去勢が行われるようになっており、気が荒いから去勢するというのはごく一部。そういったことを理解した上でレースを見れば、競馬がもっと面白くなってくるでしょう」
第1回阪神1週目が終わった段階で東西リーディングトレーナー部門の第5位につける大活躍を続けている中竹厩舎。現役騎手時代は“和也”なんて気楽に呼んでいたが、これからはきちんと氏名で呼ばせていただきます。なにかご意見があればいつでも連絡をどうぞ。お待ちしていますよ、中竹和也先生。
競馬ブック編集局員 村上和巳