・コスモバルク ・スイープトウショウ ・ダイワメジャー ・ディープインパクト ・デルタブルース ・トウショウナイト ・ドリームパスポート ・ポップロック ・メイショウサムソン
「会って最初に思ったんだけど、勝己さん、昔に比べると目の表情がずいぶん優しくなったような気がする。昔はもっと野性味に溢れていて、誰にも負けんぞって気迫がこもっていたから」
「言われてみると俺もそんな気がする。最初に会った頃はもっととんがっていたかもしれない。中央の騎手に負けてたまるかって意識が常に心のなかにありましたからね」
久しぶりに安藤勝己騎手と飲んだ。一緒に酒を飲むのはいつ以来かすぐには思い出せないが、決して飾ることのないストレートな物言いをする彼と飲むときはこちらもノーガードで本音をぶつけ合える。言ってみれば久しぶりに再会した旧友と昔を懐かしむ雰囲気になれるのだ。もちろん酒もうまい。
「中央にきてもうすぐ丸4年、ここまでにG1を10勝か。もうすっかりJRAの顔になったね」
「余計なことは考えずマイペースでやってますよ。それがいちばん楽で、俺らしいだろうから」
出されたグラスがハイピッチで次々と空になる。酒の強さは初めて会った頃とまったく変わらない。そして、馬談義、騎手談義と話は途切れることがない。要所、要所を押さえた独特の話法と鋭い分析にはなるほどと膝を叩き、ときとして織り交ぜる彼のジョークに思わず笑ってしまう。そう饒舌なタイプではないのだが、会話しているとついつい相手のペースに引き込まれる。それがまた楽しくもある。
「掛かる気性の馬だったら、日本の騎手は持って行かれないように前半は長手綱で乗って、直線の叩き合いになったときに(手綱を)短く絞る。でも、デットーリあたりは全然違う。自分の技術に自信があるから最初から短い手綱で乗って、掛かることなんか全然怖がらない。どちらのスタイルが御しやすいかは一目瞭然。デットーリが掛かって持って行かれてる姿なんか見たことがない。あのあたりが日本と世界とのレベルの差なんですよ」
この日、彼が姿を現したのは午後5時半。週刊競馬ブックの特別企画(騎手対談・安藤勝己&岩田康誠―有馬記念号、金杯号で掲載予定)に岩田騎手ともども快く参加してくれたのである。対談はすっかり盛り上がって午後10時まで続き、立ち会って遠慮がちに飲んでいたつもりの私だったが、後半にはすっかり出来上がっていた。対談は無事終了したが、「もう少し飲みましょうか」と誘われて二人で二軒目のバーに出向いたのだった。
「知り合ってもう10年ほどたちますね。いま頃になって言うのも変なんですが、俺、どういう経緯で村上さんに出会ったのかいまでもよく判ってないんです。中央で乗りたいという気持ちが俺自身のなかにあって、笠松で乗りながらその機会を待っていた。交流戦ができて中央へ乗りに行けるようになったと同時に騎乗馬を集めてもらう形になったと記憶しているんだけど、直接頼んだってわけじゃなかったですよね」
「人を介して“笠松に凄い騎手がいて中央で乗りたがってる。力を貸してくれないか”って言われて勝己さんを見に行った。こんな騎手がいるんだったら中央で乗る姿を見たいと思った。その後は紆余曲折があったけど……、まあ、そんな昔の話はもういいでしょう。ただ、時代を変えようとする人物が現れて、その思想や生き様が本物だと知ったら、周囲には協力を惜しまない人間が集まってくる。そういうことですよ」
日付が変わっても動こうとしない彼に付き合って飲み続けること8時間。時計の針が午前1時半になった段階で飲み会は終了した。当然ながら、翌朝は目覚ましが鳴り続けてもなかなか動けず、9時に出社してからも珈琲をたて続けに3杯飲んでやっと頭が動き出した程度。確実に二日酔いだった私。一方、昼過ぎに電話をかけてきた彼は「3時間ほど寝たら早く目が覚めて、予定通り攻め馬をこなしました。また飲みましょう」と何事もなかったように元気だった。鍛え方が違うといえばそれまでだが、その鉄人ぶりには呆れるしかなかった。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP