コーナーTOP
CONTENTS
PHOTOパドック
ニュースぷらざ

1週間分の競馬ニュースをピックアップ

編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
三つの誤算






 

◆“三つの誤算”

 ユタカには三つの誤算があった。ある程度は覚悟していたことだろうが、最初の誤算は滞在競馬だった札幌記念当時よりもサクラプレジデントの気分がハイだったという事実。神戸新聞杯の10日前に放牧先から美浦に戻り、そしてレースの前日に阪神競馬場への長距離輸送。気性の勝ったタイプの馬にとって厳しい条件だったのは間違いない。しかしそれは、G1奪取をめざすからには乗り越えなくてはいけない試練でもあった。

 前半は首を上下に振って行きたがる素振りを見せるサクラ。その背でなだめつつも、最後方で前に馬を置いて我慢させる手段を取らなかったユタカ。その胸中は“今日の精神状態でペースも予想どおりのスロー。ならばこの作戦しかない”と即断したのではなかったか。3角過ぎからマクッて出たユタカは、中団の馬込みの中にいるネオユニヴァースとゼンノロブロイの位置を確認しつつ、外から馬群を押さえ込むようにして内へ切れ込み、直線では最内にまで馬を寄せた。このコース取りは馬群がバラけてライバルが抜け出しやすくするのを阻止すると同時に、インから抜け出そうとする馬の進路をも断つ意図があった。もうひとつ付け加えるとすれば、右回りだと内にモタれるサクラの悪癖を、ラチ沿いを走らせることで最小限に食い止めようとする狙いも含まれていたのは言うまでもない。

 ここで第二の誤算が生じる。思惑どおりに内ラチ沿いに寄せて後続を突き放さんとした瞬間、サクラがまともに内へモタれたのである。時間にして数秒間、GOサインを出すどころか体勢を立て直すのに躍起となっていたユタカ。内ラチを頼らせてなお、これだけ激しくモタれてしまっては、身上の瞬発力を生かせる術がない。

 そして第三の誤算は、モタれながらも二冠馬の追撃を封じ込んだサクラの横を、並ぶ間もなく交わし去って行った黒鹿毛。春とは別馬のように成長したゼンノロブロイの姿だったのではなかったか。レースの上がり3ハロンすべてが11秒台だったこのレースで、瞬時に抜け出して2着以下に3馬身半もの差をつけた超A級の脚力の前には、もう脱帽するしかなかった。

 私は神戸新聞杯でサクラプレジデントからの馬単で勝負した。結果は2着で馬券は紙屑となったが、悔やむ気持ちは毛頭ない。“これぞ競馬”と思える勝負に賭ける激しいまでの気迫と執念。そんな鬼気迫る人馬の戦いが見られたのだから。


競馬ブック編集局員 村上和巳


copyright (C)NEC Interchannel,Ltd./ケイバブック1997-2003