舞台は夏の札幌競馬場。取材の合間にベンチに腰掛け、世間話に花が咲く。「ところでA厩舎の馬、よう走るけど、ダートの短距離馬ばかりやん」と私。「声がでかい! 村上さんの横に座ってるの、関東の、そのAさんやで」と肘を突つきつつ小声で私をいさめる藤田騎手。振り向いたA調教師の笑顔に、背筋がゾクッ……。
舞台は冬の京都競馬場。最終レース終了後のエレベーター内で。「もうあの馬(B)、引退させたらいい。いつまでも人間の都合で走らせたらアカン」と周囲の記者仲間に主張する私。しかし全員が無反応のまま沈黙。一階に着くと「では皆さん、お先に」と初老の紳士がエレベーターを出て行く。それを確認するや否や、「いまの、Bの馬主やで」と記者仲間。「ほんまのことやからええやん」と意地を張りつつ、内心、またやっちまったと落ち込んだ。
携帯電話を持って間もない頃。知人や厩舎関係者の電話番号をカタカナ表記で登録していた。あるとき、○○○ユウジという表記の番号から電話が入った。若手騎手の飯田祐史クンからの電話だと直感した私は、「どうした、ユージ。こんな時間に」と語りかけた瞬間、全身が凍てついた。「ワシ、○○○やけど、アンタ……」と返事してきた相手は、な、な、なんと大御所○○○調教師。平身低頭しつつ、自らの軽率さを痛感。激しい自己嫌悪に襲われた。
「気をつけないとダメ。ほんとに無頓着なんだから。しかも、そういった自分の失敗を他人に吹聴したり、コラムに書いたり。きちんと反省しないとダメですよ」と飯田君を筆頭に、よく若手に意見された。でも、やっちまったことは仕方ないし、そんな放言、失言をキッカケに親交が始まったこともあった。それぞれ、取材記者として現場を走り回っていた頃の話である。
最後に、知人の田中貴英君が『ザ・競馬トリビア』という本を廣済堂出版から出版した。ダービーで東京に行った際に本人から直接手渡され、帰りの新幹線内で一気に読み終えた。競馬がらみのトリビア(雑学)が豊富に紹介されており楽しい。この本が原因でまた放言、失言が増えてトラブルが起きた場合は、田中君に責任を取ってもらうつもり(笑)だが、競馬ファンの方はぜひ一読を。
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