6年ぶりに東京競馬場でダービーを見た。過去にも何度かダービーを見ているが、東高西低の時代だったせいか、関東馬の勝つ場面ばかりを目撃していた。競馬に関東も関西もない。強い馬は強いのだし、素敵な馬は東西を問わず素敵なもの。ただ、馬にはいつも人間が寄り添っている。厩務員、調教助手といった人間たちと交わり、その人間たちと親しくなるとどうしても情が移る。
私が今年、注目していたのはザッツザプレンティ。橋口弘次郎厩舎の所属馬だ。何故この馬に注目したのかというと訳がある。橋口さんも好きな調教師の一人だし、安藤勝己騎手も応援しているジョッキーの一人だ。しかし、それ以上に、担当の池平勉厩務員にダービーを勝たせたかったのだ。
1978年、生まれて初めてダービーを生で見た。駆け出しの競馬記者だった私は、東京競馬場の巨大さに圧倒され、大観衆に呑まれながら一頭の馬の単勝馬券を買った。長い写真判定の結果、私が単勝を握り締めて応援したアグネスホープは半馬身差の2着に敗れた。カンカン場で写真判定の結果を知ったアグネスホープの厩務員は「惜しかったな」と苦笑いして愛馬とともにその場を去った。横にいた私はかけるべき言葉が見つからず、黙ってそのベテラン厩務員の姿を見送るしかなかった。
1996年、ダンスインザダーク(ザッツザプレンティの父−橋口厩舎)は圧倒的な支持を集めてダービーに出走。激しい叩き合いを演じた末、写真判定でフサイチコンコルドにクビ差敗れた。そのダンスインザダークの厩務員が池平勉で、1978年に敗れたアグネスホープの厩務員は、彼の実父。つまり、彼らは父子二代、ダービーの写真判定で苦汁をなめたのだった。その年の秋、ダンスインザダークは菊花賞でG1を制覇。ダービーの無念を晴らした。
そんな経緯を見守ってきたが故に、今年のダービーはついついザッツザプレンティに感情移入していた。結果は3着だったが胸を張れる内容だったと思う。厩務員としてはこれからが円熟期の池平勉。腕達者で知られる彼だから、これからも素晴らしい馬を育ててダービーに挑戦することだろう。そのときには、父子二代の夢を応援に、また東京へ行こうかとも考えている。
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