週報、当日版で取材・編集記者募集の記事を掲載したところ、想像していた以上に多数の応募があった。締め切りの3月25日直前には速達が次々と届き、その反響の大きさに驚かされた。履歴書の『志望動機』『趣味・特技』『私の長所・特徴』といった欄に目を通すと、読み応えのあるものから頭の痛くなるものまで実に多彩で、競馬人気の根強さを実感した。
私がこのケイバブックに入社した当時は、競馬(ギャンブル)=社会悪という風潮がはびこっており、親兄弟にはとても会社名を明かせなかった。やむを得ず“経済関係の業界紙を出版する会社”に就職したと伝えてその場を凌いだ記憶がある。数年後、故郷の北海道出張時にSTVラジオでパドック解説を担当したところ、その声を両親に聴かれてひと騒動となった。私の熱意がなんとか通じて最終的には家族の理解を得られたのだが、現在では考えられないような苦労があった。G1といえば関東馬断然、東高西低が当然だった時代の話だ。
「競馬記者になれば、単に職務をまっとうするだけでなく、競馬の素晴らしさや、喜び、楽しみをファンの方たちと分かち合えるという付加価値があります」−これは応募してきたA君の志望動機である。若者らしくてなかなかいい。時代の変化もあるのだろうが、募集要項の大半に該当せずに興味本位で入社試験を受けた私と違って真正面から競馬と向かい合っている人間が多いのにも感心した。
業界の先輩として―なんて気取る気持ちは毛頭ないし、そんな立場でもないが、競馬記者をめざすのなら、なによりも馬(競馬)が好きであることが前提。その気持ちさえあれば、なんでも乗り越えられるものだ。自分の結婚記念日や息子の誕生日は覚えていないが、シャダイソフィアが桜花賞に勝った年に結婚して、シンボリルドルフが三冠馬になった年に愚息が生まれた。そんなふうに競馬にリンクさせた記憶は実に鮮明。私が履歴書に『趣味・特技』を書き込むとしたら、『とにかく馬、馬、馬。それだけの人生』としか書きようがないのだから。
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