解説者のクオリティ
昨秋以降、最も楽しみにしていた番組のひとつにBS1の球辞苑≠ェありました。14年から不定期で放送されていて、昨秋にレギュラー化された番組です。 野球に関連する言葉(用語・単語)≠ノスポットを当て、それについて掘り下げて考察しよう、という、ジャンルとしてはどうなるんでしょう。スポーツ情報バラエティ? なにしろ興味深く、面白い。それは単なる私ら一視聴者にとどまらず、現役のプロ野球選手にとってもそうだったようです。
15年に216本のシーズン最多安打の日本記録を打ち立てたライオンズの秋山選手。彼が不定期に放送されていた頃の流し打ち≠フ回を見て打撃開眼したおかげ、と後の放送回で本人自身が言っていたくらいですから。
特に注目したいのは、その毎回テーマとなるキーワードが決して難しい用語ではなく、当たり前に使われている用語を取り上げる点。「6番打者」なんて、スタッフの野球観が自分に酷似していることを感じたものですが、それはここではさておいて。 要するに、古くから使われている言葉で、見落とされがちであるけれども、野球を語る際により深みを増すのではないか、と思われる用語を取り上げるのです。
無論スタッフの独断である可能性は否定できませんが、それを見事に番組として成立させるのに重要な役割を果たすのが、各回毎にVTRで出演するOB、現役を問わない選手達。彼らが解説者≠ニして機能するわけです。 登場する解説者のひとりひとりが語る内容が、「そういうこだわりをもってプレーしていたのか」と思わせる珠玉のものばかり。そして、スタジオに出演するゲスト解説者が、独自の視点を取り入れながら総括する。 日本のプロ野球をテレビで観ることがめっきり少なくなっていますが、たまには観てみようかな、などと思ってしまいます。
『ブラタモリ』というNHKの人気(だと思う)番組が、国土地理院かどこかから感謝状を贈られた、なんて話がありましたけど、これも似たような話。そう、この番組も案内人≠フタイプで印象が変わる気がしますが、なにしろその街にちょっと行ってみたくなることは確かです。
わが競馬でも、この手の効果を狙った番組とか雑誌の特集ができないものか、とつい思ってしまうのは安直に過ぎるでしょうか?
日本の競馬≠ノはやたらと新語、ではなくて造語≠フようなものが現れます。一方で滅多に使われなくなって死語みたいになっているものも。 この流れの中で、 「難しい用語をわかりやすく」 という考え方があって、これは正論のようでいて、単に専門用語の言葉狩り≠ノなったりしていないのか、という印象もあります。
かと思えば流行のワンターン≠ネんて、言わんとすることが実は正確には伝わってないんじゃないの?みたいな造語も出てきましたし、「腰がはまる」などもごく最近になって耳にするようになった言い回し。造った側が勝手に編み出しておいて「意味を聞いてください」みたいに使われているモノがないでしょうか。
それよりも、以前からある競馬用語を、ひとつひとつ丁寧に紐解いていく作業。 折り合い≠ニか出遅れ≠ニか切れ味≠ニか屈腱炎≠ニかとか、挙げ出したらキリがありません。 これらの用語について、関係者の皆さんに証言してもらうことはもちろん、科学的に分析してくださるような人や、あるいはまったく別の視点を有する人などに協力してもらって、多角的に解説をしていく…。無理かなあ…。
でも、これがもしも実現するとしたら、やっぱり登場していただく解説者のクオリティが問われることは言うまでもありません。ワケのわからない怪しげな人なんかが出てきたら、番組や記事の品格が疑われて、それこそ続けることが厳しくなってしまう。 テレビやラジオの番組を取っても同じことですが、要は放送や記事の中で、解説者がいかに競馬の魅力を伝えることができるのか。
これ将来的には元騎手や元調教師、といった関係者の皆さんが、今よりも活躍する機会が増えることになっていくのかもしれません。ですが報道関係者の視点がなくていい、ってことにもならないでしょう。 その際に求められるクオリティはどんなレベルになっているのか…。今のうちから覚悟を持って向き合っておくべき案件だと思っております。
美浦編集局 和田章郎
copyright (C) Intergrow Inc./ケイバブック1997-2017