『時勢を映す』
JRA配信の「レコードブック」によると、過去に外国産馬が最も多く出走した重賞は、1998年のニュージーランドT4歳S(現ニュージーランドT)で、出走馬18頭のうち実に15頭までが外国産馬だったそうです。ちなみに優勝したのは、後に海外へ勇名を馳せたエルコンドルパサーで、2着がスギノキューティー。以下、3着マイネルラヴ、4着ゲイリーセイヴァー、5着レディボナンザと、外国産馬による着順掲示板独占という結果に終わっています。 また、この記録が生まれた2年前、1996年のニュージーランドT4歳Sも出走馬17頭中14頭が外国産馬。この時は、優勝したファビュラスラフインから実に10着のキングオブケンまで外国産馬が続き、これまたマル外乱舞≠フレースとなりました。もともと、このニュージーランドT4歳Sはクラシック出走資格のない外国産馬にも活躍の舞台を≠サんな主旨で設立された重賞。それだけに、外国産馬がこれらの記録を作ったのも、当然といえば当然と言えるかもしれません。
ところで、マル外ダービーとも呼ばれたこのニュージーランドT4歳Sの役割を引き継ぎながら、G1へと更にグレードアップする形でスタートしたのが、今週行われるNHKマイルCです。設立は1996年。つまり、冒頭で触れた記録は、ニュージーランドT4歳SがNHKマイルCの前哨戦となった直後のこと。G1という、今まで以上に大きな目標ができたことにより、外国産馬がますます勢いを増してきた……。そんな時勢が、これらの記録に色濃く映し出されている、そう考えてもいいのではないでしょうか。
そのNHKマイルCも今年で20年目。今も述べた通り、外国産馬が興隆を極めた中でのスタートでしたが、創設から20年を経た現在、同レースに当時の面影はまったくと言っていいほどありません。振り返ると、創設当初の外国産馬は常に10頭を超える出走を数えており、結果を見ても、96〜01年までは外国産馬が6連勝。しかも、その6回すべてが外国馬のワンツーで、うち4回は3着まで独占、着順掲示板のすべてが外国産馬だった年も2回ありました。 ところが、6連勝目となった2001年のクロフネを最後に、外国産馬の優勝はプツリと途絶えてしまいます。翌2002年、テレグノシスが内国産馬として初めてNHKマイルCに優勝すると、そこから今度は、内国産馬が13連勝。一方の外国産馬は2000年代半ばに入ると出走数そのものも激減しました。表でも示しているように、09年以降の外国馬の出走数は1、1、2、0、2、1頭。最近6年で7頭という落ち込みぶりですし、それら7頭の全着順もHH(KL)不FPL着。5着入着すらままならないという状況が今も続いています。
ところで、外国産馬を押しやるように台頭してきた内国産馬ですが、その中でも、近年、完全に主力となっているのが父内国産馬、つまり、2007年までマル父と表記されていた馬たちです。この、父内国産馬が2008年のピンクカメオ以降7連勝中。出走数を比較しても、減少の一途を辿る外国産馬に対して、増加を続ける父内国産馬。この両者が反比例の双曲線を描くように推移していることがよく分かります。 外国産馬と父内国産馬の、このあまりにも鮮明なコントラスト。その背景は何か? 2001年から段階的にクラシックの門戸が開かれて外国産馬に新たな選択肢が増えたこと、また、内国産馬のレベルアップというものも挙げられるでしょうが、直接的な要因はやはり、外国産馬の輸入頭数が往時に比べて大きく落ち込んでいることではないでしょうか。 その輸入頭数減少の原因となる経済の話はさておき(苦手分野なので)、たかだか20年足らずというサイクルで、外国産馬も内国産馬も、それぞれに栄枯盛衰が巡り、そんな時代の移り変わりを鏡のように映してきたのが、このNHKマイルCなのです。冒頭で紹介したニュージーランドT4歳Sにしても、このNHKマイルCにしても、生まれが国内だとか海外だとか、そんな出自には捉われず、どの馬にも平等に門戸を開いてきたレース。だからこそ、偽りなき真の時勢というものそこから見えてくるのかもしれません。
さて最後に、このNHKマイルCという鏡に映し出される次の時勢=Aそれは果たしてどのようなものになるのでしょうか? TPP参加で競走馬への関税が撤廃されれば、再び、大きなマル外の波が押し寄せる≠サんな声も少なくないようです。ただ、内国産馬はもう、マル外の波を跳ね返すだけのレベルに達している、そんな考えも間違いではないかもしれません。 いずれにしても次の時勢=Aそれは神のみぞ知るというところでしょう。
●NHKマイルCにおける外国産馬と内国産馬の比較
美浦編集局 宇土秀顕