『暮れのお祭り』
競馬ブーム真っ只中にあった学生時代の暮れ。普段はほとんど会話をすることのなかった前席のクラスメイトが授業の合間にクルリと後ろを向き、「平田さん(私の旧姓)は有馬記念何を買うの?」と聞いてきた。寡黙な彼とはただ50音順の出席番号が近かっただけのつきあいで、大学4年間を同じクラスで過ごしながらも他の会話はほとんど記憶がない。その頃私は競馬新聞や雑誌をよく見ていたので、何となくレースに参加したい気持ちで尋ねてみたのだろう。有馬記念とは、そういうレース。今も昔も競馬ファンならずとも掻き立てられる年末のお祭りなのだ。逃げ馬が好きだった私はほとんどそれだけの理由で「メジロパーマーとレガシーワールドの一点だよ」と言い切った。彼は私が予想屋になったことをきっと知らない。そして私は未だにあの時のような大ホームランの◎○を打ったことがない。この季節、毎年こんなことを思い出す。
さて、有馬記念。力の比較、適性の見極め、展開、道中の駆け引きなどがすべてが難しい。ポイントとしては ・1番人気エピファネイアの信頼度 ・中山平地G1未勝利ディープインパクト産駒の取捨 ・リニューアル中山の傾向と展開 ・初騎乗が多い などが挙げられる。
エピファネイアは心身の両面で物凄く状態が良さそうだ。天皇賞(秋)の前はまだ線の細さが残り、リラックスできているところがなかったが、天皇賞(秋)、ジャパンCと使っても体の厚みを保ち、トレセンでは気負いのない姿。1週前追い切りでは我慢が利いていて、今まで見た中で一番と思える体、走り、鞍上とのコンタクトだった。24日(水)も、追い切りではグッと気合を覗かせたが、ウォーミングアップ、クールダウンでは脱力して歩けており、ONとOFFの切り替えが利いている。この短期間になぜこんなに変わったのだろう。競馬当日のテンションは高いだろうが、このムードなら実戦でも脚はタメられるのではないか。ラストランを9馬身差の大勝で飾った父シンボリクリスエスの2003年有馬記念は鳥肌モノの破壊力だった。産駒は初出走。大きなフォームが小回りの中山に似合わないと思う一方で、弾かれたように急坂を駆け上がった父の雄姿がこの馬にダブる。手替わり、初コースで連勝となれば2015年はエピファネイアの年になるかもしれない。
ディープインパクト産駒はこれまでG1で23勝を挙げながら、中山では先週の中山大障害のレッドキングダムだけ。朝日杯FSも、中山では3頭が出走して2、3、5着だったが、阪神外回りに替わった途端に1頭出走したダノンプラチナが勝利する結果となった。
種牡馬別では ◇過去10年間の有馬記念 (数字は順に、1、2、3着、勝率、連対率、3着内率) 1.サンデーサイレンス 4 1 5 18 0.142 0.178 0.357 1.ステイゴールド 4 1 1 5 0.363 0.454 0.545 3.アグネスタキオン 1 1 0 1 0.333 0.666 0.666 3.ネオユニヴァース 1 0 0 3 0.250 0.250 0.250 5.ディープインパクト 0 0 0 1 0.000 0.000 0.000 となり、ディープインパクト産駒はこれまで中山芝2500mで馬券圏内に入ったのは1000万で2、2、3着、ラストインパクトの日経賞3着があるのみ(といっても出走数も15頭と少ないが)となっている。今年の出走馬の半数近くがディープインパクト。人気もそこそこだが、データ的には1着には据えにくい。
リニューアル後のこの開催の中山芝の種牡馬別成績は下記の通り。時計は要しており、やはりパワーのいる馬場に対応できる血統が好走している。時計がかかっていても、コンディション自体は良好。差しも決まるが、展開的には外々を回らされるようだと厳しいと予想する。
1.ハービンジャー 3 1 1 7 0.250 0.333 0.416 1.キングカメハメハ 3 1 1 15 0.150 0.200 0.250 3.ステイゴールド 2 3 4 26 0.057 0.142 0.257 3.ダイワメジャー 2 1 3 15 0.095 0.142 0.285 3.ハーツクライ 2 1 2 21 0.076 0.115 0.192 3.ジャングルポケット 2 1 1 7 0.181 0.272 0.363 3.スウェプトオーヴァーボード 2 0 0 8 0.200 0.200 0.200 25.ディープインパクト 0 4 2 16 0.000 0.181 0.272
エピファネイア(川田)、オーシャンブルー(蛯名)、トゥザワールド(ビュイック)、フェノーメノ(田辺)、ラキシス(C.デムーロ)、ラストインパクト(菱田)が初騎乗。今年、トゥザワールドで弥生賞、ラストンパクトで小倉大賞典、京都大賞典、金鯱賞、ラキシスでエリザベス女王杯を制した川田騎手のエピファネイアと初コンビは耳目が集まるところだ。
有力馬が五指に余るグランプリ。ジャスタウェイ、ジェンティルドンナ、トーセンラー、ヴィルシーナなど今年はこれが引退レースとなる馬が多い。締め切り寸前まで考え抜いて、頂上決戦をしかと目に焼つけ、2014年を締めくくりたい。
栗東編集局 山田理子