『初障害で走るのはどんな馬ですか』
「走る距離分かってる?障害編」と題した第2回の当コラム(3月9日更新)で、「初めて(の障害)でも走れる馬と、そうでない馬の違いは何なのか。フィジカルはもちろん、メンタル面もありそうだ。じっくりと観察して、取材もして、もう少し掘り下げてみようと思う。いずれまた、この場で発表できればと思います」と締め括ったが、あれから4カ月、今日、ようやく取材がひと通り終わった。私は何しろ調教班なので調教中は席を離れられず、ハロー駆けの時間帯になっては「ちょっとごめんっっ」とBコース担当仲間に申し入れをしたうえで、騎手が集うスタンドにスタスタと早歩き(トレセンは走れない!)。ハロー終了・馬場開場をメドに切り上げ「ありがとうございました」とまた専門紙のフロアのスタンド3階へ足早に戻るというふう。非効率で怪しげな行動だったが、大いに収穫があり、勉強になった。また、取材中に関西圏では初障害の馬が5週連続で勝利を挙げたから、タイムリーなテーマだったとも思う。夏のまったりした競馬タイム。障害ファンの方も、そうでない方もしばしお付き合いください。
【5週連続勝利記録】
4月23日京都 ディアマジェスティ(高田) 1600万、ダ1700m4勝 試990−650−507−365−128(馬なり) 4月30日京都 マサライト(西谷) 1600万、芝2600m、ダ1800m各1勝他 試1010−650−499−361−125(馬なり) 5月8日京都 ピカピカテッタ(北沢) 500万、芝1600m1勝 試961−650−513−376−124(馬なり) 5月15日京都 リリーハーバー(小坂) 1600万、ダ1200m3勝 試1016−666−509−366−117(一杯) 5月22日京都 スリーサンフレンチ(林) 1600万、ダ1200m2勝、1400m1勝 試984−658−513−384−133(馬なり) その後も 6月4日阪神 エムエスワールド(熊沢) OP 芝1200m、芝1400m各2勝、芝1800m1勝 試946−640−503−376−134(一杯) 7月3日阪神 シゲルダイセン(植野) 500万、ダ1700m、ダ1800m各1勝 試1004−656−508−372−122(一杯)
投げかけた質問はこれ。
「たとえば未勝利を勝てるだけの力があったとして、最初のレースから結果を出せる馬とそうでない馬の違いは何ですか?」
高田騎手:本音を言えば、先を見据える意味で初障害から目一杯の競馬をさせたくないです。自分以外にもそういう騎手は多いのではないでしょうか。まず、稽古では1周しか飛ばさないから、馬は実戦で2周走ることを知らない。2周目が終わったあとにダートにコースアウトせず、また障害コースを走ろうとするケースは結構ありますよ。いつがゴールかも理解していない半信半疑の状況なので、いきなり無理はさせたくないんです。ただ、それでも勝つ馬がいるというのは「能力」ですね。練習通りの力を出せない馬がほとんどの中でいきなり勝てるのは「メンタルの強さ」と「飛越センス」でしょう。競馬の速度でも怖がらずに飛べる「メンタル」、競馬の速度でも練習のように飛べる「センス」。練習でうまくても、レースの速度で飛ぶのは実戦が初めてなわけで、そのペースだとうまく飛べない馬がいる。緒戦はブレーキをかけてしまっても2戦目なら大丈夫の場合もありますよ。
西谷騎手:練習で、掛からずに障害の前の三完歩で加速し、頭を起こした状態で自分から飛んでいく馬はうまいね。気持ちがどうこうというより天才肌という感じ。そういう馬は着地の二完歩もスムーズだから次への踏み出しが速い。練習見てたら分かるわ。ディアマジェスティなんかは、練習で併せ馬の相手の方に乗っていたんだけど、半馬身後ろから飛んでもらったのに、飛んだら3馬身前へ出てたからね。最近ではディアマジェスティ、ピカピカ、マサライト。平地の成績からいえば、マイルあたりで切れる脚を使っていた馬とかいいね。中距離の平地力ある馬を障害におろすようになったから、昔と違ってバリバリの短距離馬は厳しいよ。障害のペース自体が以前に比べて格段に速くなっているから、道中で息を入れられないんだ。逆に、長い距離に走ってた馬だと器用さ欠く場合があるしね。
北沢騎手:やっぱり精神面だよ。栗東なら攻め馬は大体15−15で飛ばしているけど、本番は13−13のペース。練習で一歩入れたり遠目から飛んだり、併せたりとあらゆるケースを想定し、経験させて馬をつくっていっているけど、練習通りに走れるかは精神面だと思う。逆に練習が駄目でも実戦でいい意味でテンパってカッとして飛ぶ馬もいるよ。ただ、平地力がないと厳しいね。うまく乗っても掲示板(権利獲得)あればいい方。最近、初障害組がよく勝つのは、今の未勝利で勝てずに残っている使っている馬たちが(2、3着に好走していても平地力がなくて)弱いせいもあると思う。
小坂騎手:基本的には初障害は厳しいから無理に狙わない方がいいですよ。あくまで比較の問題、使ってきている馬で人気しているのが平地未勝利とかで弱ければつけ入る隙があるということでしょう。平地力の差はありますよ。リリーハーバーの時は前に行けさえすれば、差される気がしなかったです。馬込み入れてたら分かんないですけど。攻め馬で1周、楽に好時計が出ていましたしね。リリーもそうでしたが、短距離馬でも息さえ入れられれば距離は保ちますよ。短距離戦は11秒台のラップ、障害はゆっても13秒台、だから道中は馬は全然楽なんです。短距離馬だと小脚が使えるし、いいところもあるんですよ。
林騎手:やっぱり仕上がりかなあ。攻めがいいのは実戦も走る。動きが終いまでしっかりしているかどうかだね。あとは、飛越うまいのと平地力。年齢がいっているのは不安があるから僕は気にする。ズルさがあるから(経験積んで楽することを覚えてるの意)ね。
熊沢騎手:何だろうな〜、「平地能力が高いこと」かな。何しろ初めてで何もかも分からない状況にあるので、レース中に起こるいろんなことに対応して、こなして、それでもまだ最後で余裕があるということじゃないかな。
植野騎手:一番は仕上がりの良し悪し。それにポン駆けするかしないか。ポン駆けするかどうかは心身の両面でのもので、平地の時からの傾向もあるでしょう。一回使えばゴロッと変わる馬は多いですよ。息の入れ方とか息の保ち、障害に対する思い切りとかが変わってくるから。飛越のうまい下手、実戦でちゃんと飛べるかとかも勿論あるでしょうけどね。仕上がりに関しては稽古をつけていれば大体分かりますよ。競馬は2周だけど、馬って(稽古で走る障害コースの)1周でも結構疲れるから、そんな状態でも最後まで余裕をもってゴールできていれば実戦でも走る。まあ、よっぽどガッと行ってしまう馬だとどうか分からないところはあるけど……。キシュウグラシア(昨年秋に緒戦2着)なんかは短い距離で勝っていた馬だけど、攻め馬で最後まで楽にこれていましたからね。(取材後にシゲルダイセンが勝って)先週のシゲルもCWで78秒5の自己ベスト。実証できて良かったです(笑)。
今村騎手:僕は短距離の差し馬とか好きですよ。わりと息が入るし、ラストも伸びるんです。短距離で逃げていたような馬でガッと行ってしまうようなタイプだと、緒戦はつらいかもしれないですね。試験のタイムは1周より上がりが重要。全体のタイムは出そうと思ったら(テンから行けば)出せる。上がりがどれだけ楽に上がってこれるかでしょう。
(こちらは美浦の山下TM取材) 五十嵐雄騎手:今、未勝利に滞留している馬が弱いというのは単純にあると思います。それでも、最近、関西で勝っている馬たちは平地力もあって、強いですよ。実際、ピカピカテッタ、マサライト、ディアマジェスティはすぐにオープンで通用していますからね。
障害ファンがよくいう「障害戦って、平地未勝利馬がオープン馬負かしたりするから面白い!」というのは、もはや妄想なのかもというのが率直な感想。競走馬の数が増え、障害に転向馬の脚力が上がり、スピード化が進んでいる状況にあって、「平地力」は自分が考えていた以上に重要なファクターなのだということを再認識させられた。ごくごく当たり前のことだが、飛ぶ練習だけで比べると頭のなかでついつい短絡的に逆転シーンを思い浮かべてしまうもの。そこは冷静にジャッジしなければ。
飛越の巧拙はファンのみなさんにとって判断しづらい要素ですが、平地力や試験の上がりタイムは比較できますよね。脚いろ表記も「馬なり」「馬なり伸びる」「引っ張り切り」「馬なり鋭く」「強目伸びる」「一杯」「一杯バテ」などなどバリエーション豊かに表記するよう心がけますので、ぜひご参考に。コアなファンが増えればオッズもシビアになりますが、また何か新しい研究をはじめたりして負けずに頑張りまっす!
栗東編集局 山田理子