若手の台頭
今年はプロ野球中継をあまり見ない。というか自分のなかで野球離れが進んでいるのを実感する。休日に米メジャーリーグの松井秀喜やイチローのプレーは目にするが、日本のプロ野球に対する関心が薄れてきている。数年前までは漠然と阪神を応援していたが、以前の清貧(よく書き過ぎか)なカラーが変化してFA集団(所属日本人選手の平均年俸が12球団で2年連続1位)になっているあたりに抵抗があり、その割にどんなチーム造りをめざすかの方向性も見えてこなければ、高齢化が進むばかりで結果を出せずにいるのが不満。やむなく昨年は広島や楽天に注目したが、今季はこの2チームとも若々しさや勢いが影を潜めつつあるのが残念。いざ観戦して活気を感じるのは我が天敵巨人なのだから困っている。このチームが日本球界をリードしてきた歴史は認めるが、フロントやチーム内に感じられる唯我独尊的な匂いと独特の金権体質とに拒絶感を抱いている。しかし、最近は育成枠を活用して能力ある若手を次々に発掘。外様の主力と成長著しい若手がうまく噛み合って見違えるほど魅力あるチームに変貌を遂げつつある。ダルビッシュ、田中将大、涌井といったパリーグの若きエースたちの活躍を眺めているだけで楽しいように、生え抜きの若手が伸びるチームには夢があっていい。
競馬に飽きがこないのは毎年新世代が登場してクラシックを戦い抜くシステムなのが大きい。一度だけの勝負でやり直しのきかない舞台設定は高校野球の甲子園大会を彷彿とさせる。勿論世代によってレベル差があり、年によって贔屓にしたくなるような馬と出会えない場合もあるが、毎年春のシーズンを新たな気持ちで迎えられる。この心理はサラブレッドを育てる厩舎関係者も同じようで“今年の3歳では結果を出せなかったが、これからデビューする2歳はいいのが揃ってる。来年こそG1を獲りまくるから見ててくれ”と胸を張る調教師が少なくない。ダービーが終わって新馬が本格的にデビューする夏場を迎えると“来年のダービーを勝つ”と関係者が豪語する若駒が栗東トレセンだけで五指では足りなくなる。これに美浦組を加えると幻のダービー馬がふた桁は出現してくるが、まあ東西の厩舎の数だけダービー候補がいるということ。実際に最高峰のレースに出走できるのは18頭でほとんどの陣営が夢を叶えられずに終わるのだが、日々をともに過ごす若馬に感情移入したくなる気持ちはよく判る。競馬に携わっている人間は気持ちが若いとの声をよく耳にするが、完成途上の馬たちを理想の姿に育て上げようとする日々そのものが現実とはかけ離れた生活なのかもしれない。
この春、ひとりの若者が仲間に加わった。大学卒業後に院まで行って専門分野の資格を取ったというのに何故か小社編集部にやってきた変わり種。さぞかしご両親は嘆かれたろうと考えたが、“最終的には賛成して送り出してくれました”と聞いて預かる側としてひと安心した。朝から晩まで、そして年がら年中競馬漬けの生活を送るのだから、どんな経歴の持ち主だろうとまずは競馬が好きでないと勤まらない。競馬への熱意が伝わってくる彼の日常を見てまず第一段階はクリアである。あとは環境に慣れ、特殊な業務にいかに馴染むかが今後の課題。数年前まで逆ピラミッド型でベテランの多い組織だった我が編集部もいまや20代が6名と徐々に世代交代が進んでいる。紙媒体が中心だった競馬専門紙業界も携帯サイトやネットの急成長によって時代への対応を余儀なくされており、次代を担うのは当然ながら30代、20代。彼らに動きやすい環境を提供するのが我々の世代に残された仕事であり、若手がモチベーションを保ちつつ、ノビノビと競馬に向き合える環境をつくるにはどうすべきか最近は柄になく悩んだりもしている。若者が活躍できる舞台はその裏で彼らを支えるベテランの理解とサポートがあってこそ整うものだが、それが過保護であってもいけない。そのあたりの匙加減が難しいが、できればそんな我々の思惑とは無関係に自力でステップアップする人間が次々と出現して欲しい。
競馬ブック編集局員 村上和巳