初心に帰って
先週も多忙な1週間になった。月曜日は例年恒例のパーティーが京都市内で催され、4年ぶりに顔を出した。こちらは招いていただく立場なので気楽に参加したが、途中から名刺交換をしつつ挨拶を交わした方が数人。いきなりジョークを飛ばす得意パターンに持ち込むには厳しい状況だったため当初は常識人を装ったが、スーツ着用とはいえ背中にロン毛がはみ出た姿ではその努力が相手に伝わったかどうか。途中で馴染みの方をみつけて気が緩み、結局はいつもの軽薄オヤジになっていた。水曜日は業務を早めに処理して夕方4時に退社。大阪へ向かった。かなりの強行軍になったが、プライベートながら外すわけにはいかない用件。結局帰宅したのは日付けが変わってからで、かなり酩酊してもいた。翌木曜日は桜花賞の枠順発表がある重要日でなんとか無難に過ごしたが、このいい加減な生活態度については後輩には秘密にしておくつもりだ。
そして土曜日は新聞づくりが終わった午前11時に退社。阪神競馬場へと向かった。『女性のための競馬入門』(NHKカルチャーセンター西宮ガーデンズ教室主催、協力JRA)を見学に行くのが主目的だ。この講座は初心者の女性が対象で、競馬場内の来賓室に集まった方々に講師(ライターの芦谷有香さん&JRAスタッフ)がレクチャーするというもの。小社も昨年から当日の競馬新聞を提供している。この日はJRA関西広報室のスタッフの方が立ち会い、主催者側からも西宮ガーデンズの責任者・兼本泰興さん(元NHKのスポーツアナ)がいらっしゃると聞いて、挨拶も兼ねて顔を出すことにしたのだ。現地に到着したのは午後1時を回った頃で24名の受講者は熱心に講師の説明に聞き入っていた。女性に関することなので憶測で年齢を書くのは慎むことにするが、かなり落ち着いた世代の方々が多く、私よりも年長と思える方も数名見受けられた。
朝の1Rが始まる前からスタートして、馬の見方、レースの見方、馬券の買い方と着々と講義が進んでいるようで、私が来賓室に着いたときにはレース回顧と結果分析の時間になっていた。「このレースは前半のペースが落ち着いて、上がりの速い決着になりました。その結果、逃げた馬と前に位置した馬が1、2着になったということです。皆さん、わかりますか?」と芦谷さんが解説すれば、「馬には脚質というものがあって、前に行った方が力を出せる馬、後ろからゆっくり行って最後に追い上げるのが得意な馬などいろいろで……、最終的にどんなレースをするかは騎手の判断に任されます」と兼本さんも説明に加わる。どちらもがわかりやすく流暢な解説をされるのには感心した。募集を開始して数日で定員オーバーとなり、キャンセル待ちの方までいらっしゃると聞いたが、ただ楽しいだけでなく想像以上に質が高い講座だというのが実感だった。
この日は競馬ブック本紙予想が絶好調で参加されている皆さんから「競馬ブックよく当たりますね」と何度か声をかけていただいた。「競馬新聞の予想はレースの答ではなく、あくまで参考データ。最終的には皆さんたちが推理して、ご自分の判断で馬券を買うのがあるべき姿。自分の予想が当たったときの嬉しさは格別ですよ」と受けた。しかし、いつも当たるほど甘くないのが競馬の予想。処理すべき仕事が入って9レースの大阪─ハンブルクCが始まる前に来賓室から記者席に戻ったのだが、その途端に9、10レースともに大波乱。本紙予想も残念ながら的中しなかった。絶妙のタイミングで場を辞したものだなと我ながら感心したが、熱心に競馬新聞をご覧になっていた方のなかには万馬券を的中した方がいらっしゃるかもしれない。皆さんがノビノビとして楽しそうに競馬に向き合っている姿はなかなか微笑ましいものだった。
「感動しました。ほんとにお世話になり、ありがとうございました」 「競馬が女性でも楽しめること、気軽にできることなどがわかり、楽しかったです」 「少々敷居が高かったのですが、まじめにレクチャーを受けると、競馬のダーティーなイメージ(ごめんなさい)がくつがえるよいきっかけになりました」
これは後日、兼本さんから送っていただいたアンケート結果(受講者の皆さんを対象に実施)の一部を引用したもの。専属の講師がついて来賓室で観戦する恵まれた環境だったとはいえ、参加した皆さんの競馬に対するイメージが変化している様子が伝わってくる。当日馬券売り場で会った女性たちは「単勝ってこのマークの仕方でいいんですか?」「ボックス買いってなんですか」と積極的に動き回っている。「当たったら最高ですけど、馬券が外れても楽しいものですね」と感想を漏らす女性もいた。そんな彼女たちの初々しい行動を見守った影響なのか、桜花賞は3連単を避けて単勝と馬連数点に絞ってシンプルに勝負した私。単勝こそ残念ながら外れたが、久しぶりにプラスを計上できた。ときには初心に帰ることも必要のようだ。
競馬ブック編集局員 村上和巳