四位騎手 ロングインタビュー
先々週は追い日からずっと雨。金曜日の午後2時すぎに四斗真宏カメラマンが相談にやってきた。普段なら水木で終了するフォトパドックの撮影がほとんどできていないという。当該週の重賞レースに出走予定の有力各馬の写真を掲載してその状態について解説するこのページは週刊競馬ブックの人気コーナーのひとつだが、裸馬を馬房からわざわざ外に出してもらって撮影するのは関係者にかなり気を遣う。約束時間に雨が降っていると当然キャンセルになるわけで、この週は水木金と雨。「今日もダメなら明日(土曜日)の午前中、つまり競馬場に行く前に撮影に行きますが、時間的に予定馬すべては撮影できないかも」とのこと。優先撮影順を指示しつつカラーページの割り付けを再考することになったが、午後3時前になって幸運にも雨が上がり、「予定の全馬を撮影できました」と今度は長島緑朗カメラマンから連絡が入った。「約束した時間に一瞬だけ雨が上がったのはまさに奇跡。君らの気持ちが伝わったな」と返したが、現場での仕事は自然との戦いでもある。
ここ2週間は京都木屋町、大阪法善寺横丁、新宿歌舞伎町といった歓楽街に出向く機会があった。若い頃、いや、ついこの前までネオンに囲まれるとハミを外して走り回った記憶があるのだが、最近は妙に常識的になって無茶をしない。遅まきながら年齢相応の分別が身についたと言えなくもないが、気に入った酒を飲んでも格別旨いとは思わず、好きな音楽を聴いても気持ちが弾まなくなっている。感性の更なる鈍化なのか、それとも気力が欠落しているのかといろいろ考えているが、現実問題として頭が痛いのはレースを見終えて伝わってくるものがなくなりつつあること。必然的に馬についての文章を書こうとしても型に嵌った陳腐な言葉しか浮かんでこない。もともと知識が浅く語彙が少ないのが悩みだが、年齢を重ねて更に表現力が乏しくなっている。“衰えをカバーするには若い頃以上の読書量をこなすことが必要”とある文筆業の方にアドバイスをされたのを思い出す。延々と外れ馬券を買って憂さ晴らしに酒ばかり飲んでいては堕落する一方。このままではいかんと実感するのもやはり酒を飲んでいるとき。堂々巡りでまるで進歩がないのだから困ったものである。
先日、久しぶりに四位洋文騎手と電話で話した。「G1勝ちおめでとう。なかなか乗り手の言うことを聞いてくれないキンシャサノキセキを完璧に操作したね」と振る私に「小回りの1200メートルはたとえ一度でもミスをしたら取り返しがつかない。その意味では跨っていていい緊張感がありました。描いていたイメージ通りの競馬ができましたが、今回は馬自身が頑張ってくれたのがいちばん。勝因はそれに尽きますよ」といかにも彼らしいクールな返事があった。馬について語らせれば四位騎手の右に出るものはいないと言われる理論家で、あたりの柔らかさや技術レベルの高さは現役では群を抜く存在。にもかかわらず、成績が示すように騎乗数も勝ち鞍も決して多いわけではない。騎手と調教師との立場では競走馬に対して求めるものに違いがあるのかもしれないが、もっとたくさんの馬に乗って活躍して欲しい魅力的で刺激的な騎手ではある。
最後にCMをひとつ。週刊競馬ブック4月12日発売号では高松宮記念を制した四位洋文騎手のロングインタビューを掲載します。まずはレース回顧から始まって、デビューからここまでの騎手人生を彼らしい言葉で語ってくれています。「僕は、若い頃から勝てばいいという競馬じゃなく、馬の次のことを考える競馬をしてきました」「G1レースって神秘的なものかもしれませんね。……ダービーの時は音が消えました」といった興味深い話が次々と披露されているので競馬ファンの方には是非目を通していただきたい。また、同騎手のサイン入り競馬ブック特製レース写真を5名の方にプレゼントしますのでどうぞお楽しみに。
競馬ブック編集局員 村上和巳