12月中旬、師走真っ只中である。すでに何件か忘年会に誘われたが、大半はお断りしている。一時期、ちょっとした事情で医者通いしたが、現在はそう体調が悪いわけではない。しかし、年末はダブル開催が続いて日程に余裕がないのに加え、気持ちが乗ってこないという背景もある。迷いに迷ったのは「19日の土曜日、ミナミで忘年会。よろしければ」とのお誘い。最近はあまり活動しなくなった“土曜の夜”というのも新鮮だったが、それ以上にそそられたのが“ミナミで”のひと言。大阪・ミナミでの忘年会と聞くとイメージだけでスキップしてしまう私。即OKしかけたが、考えてみるとその翌日は朝から超多忙。お調子モンの自分の性格を考えるとミナミまで出掛けて1軒、2軒だけで帰るわけもない。体力の限界を感じて涙ながらに断念した。
12月半ばといえば今年のJRA賞についても考えなくてはいけない時期。年度代表馬はG1を3勝しているウオッカが他馬をリードしているが、もしブエナビスタが有馬記念を制するとこの部門は牝馬2頭の熾烈な争いとなりそうだ。昨年同様に今年も牝馬の活躍が目立つ1年となったが、この傾向は当分続くかも。最優秀4歳以上牡馬は天皇賞(秋)、マイルCSとG1を2勝したカンパニーとスプリントG1春秋制覇を果たしたローレルゲレイロの争いになるだろうが、それ以上に頭を悩ませそうなのが3歳牡馬部門。三冠レースの勝ち馬がそれぞれ違い、NHKマイルCや他のレースを勝った組にもこれといった存在が見当たらない。
まずはクラシック第一弾の皐月賞を颯爽と勝ち上がったアンライバルドだが、その後はダービー、神戸新聞杯、菊花賞と3戦していずれもこの馬らしさが見られず完敗を喫した。4月に書いたこのコラム・2009年皐月賞回顧で“敵は相手関係よりも自らの内面にありそうだ”と結んだ記憶があるが、気性の激しさが災いしているのか、その後のレースぶりにあまり成長が感じられない。というか、内容が悪くなっているのが気になっている。今年のレベルからして有馬記念で見違えるような好走を見せればこの世代の代表牡馬に選ばれる可能性はあるが、現状のこの馬にとって中山の2500メートルが好ましい条件だとは思えない。
他に有力候補がいないならダービー馬ロジユニヴァースを選ぶのが妥当という考えもある。しかし、ご存じの通り今年のダービーは40年ぶりの不良馬場。力を競い合ったというよりは泥んこ馬場を乗り切った馬が先にゴールインしただけというのが実態。そのレース結果だけで最優秀3歳牡馬を選出するのはいささか抵抗がある。この馬については春の段階から“体調面の把握が難しそう”と書いたが、脚元を含めた体質の弱さがあるためかダービー後は一度もレースに出走していない。今年は3戦して弥生賞、ダービーを勝ち、人気を集めた皐月賞は14着。できれば有馬記念で姿を見たかったが、それが叶わないのは残念である。
三冠最終章を制したのはスリーロールスだったが、それまでの勝ち鞍3勝はすべて条件レース。つまりオープン競走の実績は1走だけであり、2000メートル以上のレースで勝ち鞍のない馬が菊花賞を勝ったあたりが時代の変化を物語っているとも言えよう。春よりも確実に地力を強化している点は認めるにせよ、この1勝だけで世代の代表馬とするには歴史的なパフォーマンスが必要だった。ただ、血統、脚質からすると中山コースも2500メートルの距離もこの馬にピッタリの感。人間が選ぶ以上その記憶や印象は当然新しい方が鮮明でもあり、有馬記念で能力の高さをアピールできるかどうかがポイントになりそうだ。
牝馬として、64年ぶりにダービーを勝ったウオッカと37年ぶりに有馬記念を制したダイワスカーレット。彼女たちの活躍は素晴らしかったが、混合戦で牝馬の勝利が賞賛されるのは屈強な牡馬を打ち負かしてこそ。近年の牝馬の台頭は牡馬のレベルの低さ、層の薄さを浮き彫りにする結果となっている。サンデーサイレンスが姿を消したこと、そして世界を襲った経済不況の影響も少なくないだろうが、ここ数年は爆発的な決め手や圧倒的な存在感で他馬を威圧するような牡馬が出てこないのが寂しい。個人的には厩舎で何度か鼻面を撫でたブエナビスタに注目している今年の有馬記念だが、その前に立ち塞がる逞しい牡馬がいて欲しい気もする。
競馬ブック編集局員 村上和巳