休日だというのに朝7時半に目覚ましが鳴る。渋々起きて朝食を済ませ、ダレながらも外出準備に取りかかる。8時半を少し回ったあたりで家を出て地下鉄を乗り継ぐと予想よりもかなり早く四条烏丸に到着。このあたりは大手の銀行や証券会社が並ぶオフィス街で、なかなか暇をつぶせる手頃な場所が見当たらない。小雨の降るなかをうろついているとビルの1階にスターバックスがあったのでそこでコーヒーを飲んで時間つぶし。店内は当然禁煙のため外のテーブルに陣取って煙草をプカプカ。これから検査を受けようかという人間にはとても思えない。予約時間通りにクリニックに着くと独特な雰囲気の女医さんがスタンバイしている。
医者「まずは身長、体重を計りましょうか?」 村上「この年ですし、先月も計っているからいいでしょ。だいたいの数字だけいいます」 医者「メタボチェックの意味もありますが」 村上「身長は伸びようがありませんし、体重も変わりません。はい」 医者「肉、魚ではどちらがお好きですか?苦手な食べものは」 村上「嫌いではありませんが、肉類と揚げ物は量を食べられません。魚介類が好物で、なかでもウニ、白子、イクラ、タラコといったものがあればいくらでも日本酒が進みます。野菜類も好きな方ですね」 医者「野菜はいいですが、基本的にコレステロール値の高い魚卵類は極力控えた方がいいでしょう。あと、プリン体も好ましくはありません。納豆、豆腐、イワシあたりが代表的な食品ですが」 村上「全部好んで食べているものばかり。みんなダメなら生きて行けなくなりそうです」 医者「(資料を見ながら)京都の方ですよね?食生活も言葉使いもそれっぽくありませんが」 村上「ええ、3年ほど前から。話せば長くなりますが、時間はありますか?」 医者「じゃあ、いまの質問はなかったことにして、まず心電図をとりましょう」
こんな相手と話しているときりがないと思ったのか一気に問診を打ち切り、そこからは黙々と検査が始まった。ひと通りの作業が終わった段階で再び質問が始まる。そして最後は意外な展開になった。
医者「デスクワーク主体とのことでしたが、やはり運動不足ですかね」 村上「通勤で毎日30分以上歩いています。階段の上り下りもしていますから大丈夫でしょう」 医者「どちらかというとストレスをためるタイプですか?」 村上「お気楽で物忘れの天才。その点は大丈夫だと思います」 医者「退職しているウチの父親は土日になるといそいそ外出しますが、日曜の夜は比較的疲れた様子で酒量も増えるケースが多いと感じます。ちなみに競馬ブックの愛読者ですが、そんなものでしょうか」 村上「競馬に対するスタンスは千差万別ですからなんともいえません。ただ、私の場合も日曜夜は1週間でいちばん酒量が増えます。普段はすべてを忘れて飲み、ごく稀には快哉を叫びつつ飲みます。推理で適度に頭を使い、レース観戦でも適度の刺激を受ける。高齢者には手頃なトレーニングだと思いますがね」
この父君は70歳を越えているとのことだが、週末になるといつも花見小路にあるウインズ京都に通っているというからお元気である。「私は競馬をしませんけど、ずっとブックの雑誌と新聞を離しませんよ」との嘘のような本当の話を聞いて、思わず「どうぞよろしくお伝えください」との言葉が口から出た。あと5年、10年が経過したとして、同じように競馬との友好関係を保てるものだろうか。そんなことを考えながらクリニックを出ると朝からの雨がすっかり上がって空には晴れ間さえ出ている。検査結果も問題なくいっぺんに気分爽快となった。先週のエリザベス女王杯こそ完敗だったが、よ〜し、今週こそ馬券で稼いでやろう。
競馬ブック編集局員 村上和巳