先週1週間は体調不良に悩まされた。月曜日の午後に調教師、ライターさんと話す機会があったのだが、そのうちのひとりが「声がやけに疲れていますが、どうかしたんですか?」と尋ねてきた。「いや別に、問題ありませんよ」と答えたように自覚症状はなかった。しかし、その日は一日中頭が重く体がだるかった。この時点で嫌な予感はあったが、ひと晩寝れば大丈夫だろうと例によって放置していた。
火曜日は月例会議で七条へ。移動の最中に寒気がした。それでも「気温が下がってきた。いよいよ秋深しだよな」などお気楽なことしか考えないのだから困ったもの。いつまでも若いつもりで無軌道な人生を送っている限り年齢相応の重厚味など身につくはずもない。ただ、年齢とともに衰えている体力を過信してはいけない。にもかかわらず、この日も普段通り酒をチビチビやって酔っ払って寝た。懲りないオヤジである。
水曜日はいつも通り出社したものの午後に体温を計ると熱が2度ほど上がっている。この段階でやっと自分の体調が正常でないと自覚したが、その頃にはもう遅い。このコラムを仕上げる体力も気力も萎えかけているが、無断での休載はしたくない。やむを得ず過去の記憶に残る菊花賞を手短に列記して終了したが、これでは手抜きとの謗りを免れまい(深く反省)。最低限の業務だけを処理して早々に退社。帰宅してからはいつもより早くベッドに潜り込んでみたが、まるで眠れず深夜になって突然嘔吐を繰り返すことになった。
日付けが変わり、木曜朝になっても症状は改善されない。調教開始前の時間帯に「まず診察を済ませ、新型インフルエンザの場合は自宅でメール、携帯電話を使って業務処理。それ以外の場合は少し遅れて出社予定」と責任者に連絡。菊花賞の出馬発表があるこの日は年間最多忙日。個人の都合で休めるはずもない。幸い風邪に胃腸炎を併発との診断。点滴をして1時間遅れの出社となった。朦朧としたままに過ぎ去った1日だが、周囲のサポートもあってなんとか乗り切れた。なんと思い遣りのあるいい組織だとしみじみ感謝した。
普段から薬嫌いの医者嫌いで少々のことでは医療機関へ行かない。そんな人間だからなのか、はたまた体質なのか、痛み止め以外の薬には昔からかなり敏感に反応する。さすがに体力、気力とも回復途上ではあったが、熱はひと晩で下がり、食欲も少し戻ってきた。周囲に病原菌をバラまかぬよう木曜日からマスクを着用していたが、いくらか口数が戻った金曜午後にやれ「マスク姿が似合わん」だの「ガムテープで口を固定すべきだ」と周囲からのバッシング。これがあるべき本来の姿だが、なんとキツい組織かとスネていた。
土曜日の朝、外で久しぶりの煙草を喫いながら車で京都競馬場へ向かうスタッフを見送っていると「今日の福島5レースのショウリュウアクト買うて、風邪なんか吹き飛ばせ」とU記者が囁く。情報は過信しない私だが、相手が社内で1、2を争う馬券師U。しかも、尋ねてもいないのに彼の方から狙い馬を囁いてくるのは1年に1回あるかないか。最終決断までに多少の紆余曲折はあったが、結局はこの情報に乗ってみた。
土曜日の昼になると体調も喋りも完全復活。マスクもゴミ箱に捨てた。「来週からU君のことを名人、いや師匠と呼ぼう」と周囲に宣言。福島の馬連を当てた途端に別人に変身したのだから周囲のスタッフは“なんと単純な馬券オヤジや”と呆れたことだろう。しかし、この奇跡的回復の後に更にひと山あった。TV観戦した菊花賞は周囲から「浜中、ハマナカ〜ッ」と声が出るなか、黙して馬群にナカヤマフェスタの姿を探していた。この日の夜になると今度は頭痛に襲われたが、これはおそらく土曜日に儲いだ金額をすべて菊花賞に突っ込んで敗れた後遺症。この1週間はこれまでの自分の生き様を振り返って反省することが多かった。
競馬ブック編集局員 村上和巳