ここ10日ほど、原稿を書いている以外の時間帯はただひたすら外部に電話をかけまくっていたような気がする。思いつくままに相手を列記してみると、競走馬総合研究所、JRA関西広報室、小倉競馬場、札幌競馬場、調教師、騎手、関西騎手クラブ、ノーザンF、社台F、北海道の写真プロダクション、サラブレッド血統センター、小社美浦編集局、週刊誌の執筆者数名、某温泉ホテル……と続き、最後にはオフのおまけとして救急病院まで加わるのだから変化に富んでいるというか、変化がありすぎて飽きれてしまう。
「いやあ、今日、○○君が教えてくれてね、いいものをみつけちゃいました。村上さん、ネットで原稿書いてるんですね。先日の私のことを取り上げているくだり、しっかり拝見しましたよ」
競走馬の心技体の“技”を担当していらっしゃる青木修氏にこんなことを言われると恐縮を通り越して羞恥心の塊になる。「お、お恥ずかしい限りです。あ、あんなレベルの低い原稿読んじゃだめ。体調崩しますよ。それよりも先日の話ですが」と必死で話題を変えるのが精いっぱい。冷房の効いた部署にいるにもかかわらず一瞬にして全身に冷や汗が噴き出た。相手は馬の装蹄師としてもスポーツ科学の研究者としても世界的な権威であり、筆力もトークも完璧で隙のない人物。電話を切ってしばらくは頭痛に襲われた。こうなると自分の文章力の乏しさを棚に上げてこの原稿の存在を知らせた平○氏を逆恨みするしかない。今度お会いしたら激しく攻め立てますから覚悟しておいてくださいよ、○賀さん。とは書いてみたが、論戦を展開して勝てるレベルの相手ではないのは明白。こうなったら“必殺・酔っ払いオヤジ”に変身して絡むしか手はなさそうだ(汗)。
「この前の原稿読ませてもらった。たしかに周辺地域に避難勧告が出ているような状況で競馬を開催するってのは主催者として失格だと思う。ただ、君の論旨というか、結論が曖昧でいかん。批判するならビシビシ批判すればいいし、なにか提言するならもっと明確な形で問題提起すべき。“主催者の判断が難しくなる”だの“好ましいとは思わないが、無観客開催という選択肢もある”だのって、なんか最後が締まらない。昔から君の売りはテンポの良さと明るさ。最近はそういったものが感じられない。感性が鈍ってないか」
これは20年来の付き合いになる私より少し年長の某調教師。物好きにもずっとこの原稿に目を通してくれている人物だ。半年に一度ぐらいの割合で電話をいただくが、見識があって競馬に対する姿勢は常に前向き。そのぶん届く内容は辛口。的を射ているというか的確な指摘が多いのでいつも素直に耳を傾けているが、今回はひとつだけ不満が残った。それは私の売りが“テンポと明るさ”だけだと指摘した部分。他に誉める点がないのかと暗くなったが、似たような指摘をよく受けることから、周囲の人間の共通認識なのだろうと諦めてはいる(涙)。しかし、一度ぐらいは“知的”だとか“論理的”、はたまた“思慮深い”なんて言われてみたいとの願望もあるが、半世紀以上も“軽薄わが命”といったお気楽人生を送っているのだから、願望のまま終わるのは間違いなさそう。それはそれで仕方ないとして、たしかに最近は判断力にも発言内容にもまるで切れがない。年齢のせいと逃げても“ダメ度”は更に増幅するだけ。対策を講じたいが、それがまた難しい。
先日、初めて話す機会があったのは今年デビューの新人騎手・国分恭介クンと松山弘平クン。電話を入れたのが金曜夕刻で、揃って小倉行きの新幹線で移動中。現地へ着くと競馬場の調整ルームに直行すべき時間帯だけに接触は無理かと半ば諦めたが、着信に気付いて下車してすぐに私の携帯電話に連絡してくれた。手短に用件を話しただけだが、男っぽい明朗な応対の国分クンとオットリした口調の奥に誠実さが感じられる松山クンに好感を持った。現場の人間に尋ねると「派手さはありませんが、今年の新人ふたりはかなりのレベルまで成長しそう」との返事。今回話したのもなにかの縁なので当分はふたりを応援してみようかと思う。それによってなにか新鮮なものと触れ合えればと都合のいいことを一瞬考えたが、そんな外的刺激をアテ込むなんてのは問題外。内部から湧き上がる強い目的意識がない限り、自己変革への道のりは限りなく遠い。こんなアホなことばかり書き殴っているうちに58歳になっていた。老化との戦いはこれから更に厳しさを増していく。
競馬ブック編集局員 村上和巳