先週は雨に悩まされ続けた1週間だった。まずは7月22日(水)。未明から早朝にかけてかなりの量の雨が降った。調教が始まる頃には小降りになったものの、地盤が緩んで調教をするのは危険なため坂路コースと逍遥馬道が閉鎖された。それでも、週末に出走予定を組んでいる馬の大半はいつも通り水曜追いを実施した。追い切りを翌日に変更するパターンも有効と思えるが、そうすると馬の生活リズムが崩れるだけでなく、夏場のこの時期は週末の長距離輸送との兼ね合いも問題になる。つまり、土曜日に出走を予定している馬が木曜日に追い切ると、翌日の金曜日が新潟や小倉までの輸送日となって疲労が回復し切れないままレースを迎える馬が出てくる可能性がある。そんな事情もあって関係者は少々馬場が悪くても水曜追いにこだわるのである。
この日は坂路調教馬がすべてトラックに姿を現し、一番乗りから馬場が閉鎖されるまでコースはずっと渋滞となった。普段でも馬場開場直後は秒刻みで各馬が追い切るために息つく暇もないほどのラッシュタイムになるが、1時間が過ぎるとハロータイム(整備のため馬場にハローがけをする)となって一旦は馬場入りにストップがかかる。調教班(採時者、ゼッケンや脚色を調べる担当者)はこの間に前半のチェックを済ませるのだが、ハロータイム終了後は馬場入りする馬の数が漸減して徐々に落ち着いてくるのが通常。しかし、この日はいつまでも馬場入りする馬の数が減らず、前半同様のラッシュタイムが延々続いたという。会社へ戻ってきた調教班は1週間が終わった日曜日の夕方のように憔悴し切っていたが、話を聞いてみるとそれも当然だった。
坂路担当の調教班は小高い丘の上にあるいつもの小さなスタンドには向かわずトラック専用の調教スタンドで各馬の動きを見守ったが、普段とは勝手が違うために戸惑いがあったようだ。馬それぞれに個体差があって動きや反応も違うのだから、調教の良し悪しを判断するには高さも角度も一定の場所で繰り返し観察することがベスト。そういった経験の積み重ねによって日々の変化が読み取れるようになるもので、普段と違う環境で調教することになり、馬自身がリズムを崩して予定通りの調整ができないケースも少なくなかったという。人も馬も大変な1日になったが、そんな日にもかかわらず比較的スムーズに業務を処理できた人間もいる。「いつもは坂路、トラック、逍遥馬道といろんな出入り口を走り回るのに、今朝はトラックの出入り口を見張るだけで済みました。でも運動場所の至るところでかなりの量の砂が流れ、下のコンクリートが剥き出しになっているところもありました」とはカメラマンだが、この証言からも生半可な雨量でなかったことがわかる。
関西地区を襲った豪雨も翌日には上がり、「水曜と木曜の天気が逆だったらよかったのに」といった声が飛び交ったが、金曜日の午後には“北九州地区にゲリラ豪雨”のニュースが飛び込んできた。土曜日の早朝に小倉滞在中のスタッフに状況を尋ねると「各地で観測史上最高の雨量。ダートコースはかなり砂が流れていて開催できるかどうか」(牟田雅直記者)との返答。この段階で開催中止を覚悟したが、午前8時過ぎになって「1日の総雨量が280ミリを超えて競馬場の近くを流れる紫川が氾濫寸前のようですが、なんとか雨が上がりました」(足立雅樹記者)との連絡が入った。結局のところ大きな事故もなく小倉競馬は通常通り開催されたが、日曜夜には私が通勤に利用しているJR草津線の電車が2本運休。ホームで長々と待っているだけで疲れ果てた。
関西ではまだ梅雨明け宣言がなく山口県や北九州地区の集中豪雨、群馬県の竜巻と全国で異常気象が続いている。地球温暖化により日本列島が亜熱帯化しており、開催日にゲリラ豪雨、竜巻、台風といった災害が発生する可能性は今後更に高くなる。「周囲の地域に避難勧告が出た状況下でも競馬を開催する姿勢はどうなのでしょう」(25、26日と小倉で騎乗した騎手)との声があったように、主催者側としては開催するか否かの判断が今後はより難しくなる。今回、何度かJRAのホームページを見たが、小倉競馬開催のお知らせは土曜朝の段階でも馬場状態についての記載があるだけ。周辺地域の詳細な気象状況や避難勧告(その後に解除にはなったが)が出ていることについての説明は一切なかった。ファンを混乱させたくないとの意図もあるのだろうが、来場する人々が安心して競馬を楽しめる環境を提供するのが主催者の義務。最終判断はファン自身に委ねるとして、競馬場の周辺地域の情報をホームページで告知することも必要ではないか。それともうひとつ、現在の売り上げの場外依存率の高さを考えれば、どうしても開催を強行したい場合には無観客開催といった選択肢もある。決して好ましい形だとは思わないが、これならファンを災害に巻き込むことは最低限避けられるのではないだろうか。
競馬ブック編集局員 村上和巳