直線で外から内へ斜めに切れ込みながら一気に先頭に躍り出たアンライバルド。その瞬発力にはただただ圧倒された。心配された折り合い面も何とかクリア。勝負どころからは他馬が動くのを待って仕掛ける余裕を感じさせるレース運び。騎手がGOサインを出すのを待っていたかのように即座に反応したあたりがこの馬のセールスポイント。加減せずビシビシ追われながら馬体が増減なしだったように仕上がりの良さも目についた。多少は展開が向いたにせよ、この勝ちっぷりは文句のつけようがない。父も兄もダービー馬という血統背景を考えれば次なるダービーもこの馬が主役になるのは間違いなさそうだが、唯一心配があるとすれば精神面。兄のフサイチコンコルドは輸送に弱く馬運車に乗せるといつも熱を出して関係者を悩ませたが、この馬の場合は反応が良すぎる点が逆に気になってくる。2400メートルで今回のようにスムーズに折り合えるか、そして、舞台が東京コースに替われば仕掛けのタイミングももうふた呼吸は遅らせる必要があり、我慢が利くかどうか。皐月賞を制覇して3歳世代の頂点に立ったアンライバルドの敵は相手関係よりも自らの内面にありそうだ。
2着のトライアンフマーチはしんがり追走からの直線勝負。例年とは違ってペースが速くなりそうなメンバー構成と読み切っていたのかもしれないが、レースを見る限りはそうとも言い切れない。発馬が悪く道中もフラフラする若さを見せていたことから開き直って一発勝負に賭けた可能性もある。桜花賞馬キョウエイマーチの産駒で厚みのあるいい体つきをしているが、現段階では完成途上。これから時間をかけてトレーニングを積んでいけばそれなりの馬に成長しそうだが、まだ皐月賞の結果を鵜呑みにできない。
セイウンワンダーは右にヨレながらゲートを出て位置取りが悪くなったのが痛恨。2コーナー過ぎからはアンライバルドの直後で流れに乗れていたが、相手が動き出した3角過ぎで一瞬のうちに離されてしまった。この加速力の差が一流と超一流との差になるのかもしれないが、馬体をキッチリと絞って本来の末脚を発揮したように最優秀2歳牡馬の名に恥じぬレースは見せていた。グラスワンダー×SSの配合で気性面からしても距離延長には対応可能。発馬さえスムーズならばダービーでも上位入線を狙えるだろう。
シェーンヴァルトは相変わらずイレ込みが目立った。そのためにゲートをゆっくり出して折り合いをつけようとしたが、17番枠で前に馬を置けない厳しい状況。1〜2コーナーから向こう正面に入ってもずっと掛かっており、その分、頭の高い走りも目についた。それでいて4角からアンライバルドの後を追って一気に進出して脚は見せている。まだ素質だけで走っている印象が強く、裏返せば伸びしろは十分にある。気性や走りからすると1600メートルあたりで爆発力を生かすレースをさせる方が合っているのではないだろうか。
リーチザクラウンは好位で我慢して3角過ぎからスパート。そのまま押し切らんとしたが、道中ずっと力んで走っていたため直線を向くと早々に失速。「ゆっくり走るのが苦手な馬」と武豊騎手が話していたように、他の馬がつくり出すペースに合わせて我慢しながら走らせるよりはハナを切るかバラけた前々のポジションでノビノビ走らせてこそ。馬っぷりは上々で潜在能力もかなりのものがあると思われるだけに今後の評価が難しい。タイプは少し違うが、先々はサイレンススズカのような個性的な道を歩んで欲しい。
ロジユニヴァースの敗因が判らない。最内枠でもゴチャつくような場面がなくスムーズに流れに乗り、1コーナーで1頭分外に出し、2コーナー過ぎではバラけた好位の外目に持ち出す理想的なレース運び。ポジショニングは完璧で折り合いもついていた。リーチをマークしながら差を詰めにかかった3角過ぎでは楽勝かと思えたが、外からアントニオバローズが上がってきたあたりで急に手応えが怪しくなった。出入りの激しい競馬が良くないとしても反応が悪くなったのは馬群が密集する直前。それだけに判断が難しい。振り返ってみるとこれまでのレースでも内在する激しさを覗かせる場面が何度かあった。この馬もリーチザクラウンほどではないにせよ、自分のペースで走れないと能力を発揮できないのかもしれない。札幌2歳Sこそ7、8番手から差して勝ったが、いまから思えば楽勝して当然のメンバー構成。その後は先行して2勝しており、前々につけて平均的な脚を長く使うレースが合っているのかもしれないが、これはあくまで仮説でしかない。体調面について考えてみると、木曜日のJRA発表の馬体重が504キロでレース当日は490キロ。つまり、金、土、日の3日間で14キロ減った計算になる。テレビ観戦ながら本馬場入場の際にはやけにスッキリ映った。極限まで絞り込んだという解釈も成立するが、急にカイ食いが落ちたり、輸送で激しくイレ込んで消耗したケースも考えられる。機会があれば知将として知られる萩原調教師に取材してみたいが、完成途上のこの時期の若駒の体調把握は実に難解だ。
今年の1月に調教師として一時代を築いた方が亡くなった。その人物はバレークイーンの血統背景に惚れ込み、その産駒を育て上げることに心血を注いだ。「ワシにはもう時間が残されていない。もし、ダービーを獲れるとしたら、このフサイチコンコルドしかおらん」の口癖がいまでも耳に残る。故人の遺志で家族葬にしたとの夫人の話を人づてに聞いて自宅に伺うのを自制しているが、四十九日が済んだことでもあり、時間ができたら一度挨拶に出向こうと考えている。そのときには「早いものであれから13年。どこかで見ていらっしゃったと思いますが、バレークイーンの仔が今年の皐月賞を勝ちましたよ」と報告するつもりでいる。
競馬ブック編集局員 村上和巳