3月半ばあたりから寒の戻りで急に冷え込みがきつくなり、しかもここ数週間は金曜日になると雨ばかり。関西ではとても春とは思えない週末が続いた。しかし、今週初めになって肌に触れる風が随分優しくなり、栗東本社を取り巻いている小さな桜並木も一気に満開となった。春爛漫、いい季節になってきた。しかし、気候がよくなってほのぼのとしてくると、それと同時に緊張感までをも失するのが我々オヤジ族。困ったものだ。
「もしもし、村上さん。いまどこですか?」 「いまどこかって。会社で仕事してるに決まってるだろ」 「ずっと厩舎で待ってるのに、いつくるんですか」 「ずっと待ってる?どうしたんだ?」 「水曜日に厩舎へ行くからパネルにサイン書いてくれって言ってたじゃないですか」 「……、ご、ご、ごめん。思い出した。車ぶっ飛ばして15分で行くから待っててくれ」
知人からの依頼である騎手にサインして貰うべく電話で日時を決めた。なのに当日には約束を完璧に忘れていた。車でトレセンに急行して相手の騎手にひたすら平身低頭。なんとかサインは書いてもらったが、別に浮かれているつもりもないのに最近は物忘れが多くなって困っている。メモ帳に書き込んでおくとそのメモ帳が行方不明になり、携帯電話の未送信メールにメモとして残すとそれが消えてしまったり。処置なしである。
年長の立場のある方と連絡を取る必要が生じてメールを作成。型通り季節の挨拶から入って用件を綴り、締めの言葉でまとめて文書が完成。自らのそそっかしさを考えて読み直すこと複数回。“誤字脱字なし、内容も問題なし。これならOK”と安心して名前を入れて送信しようとした瞬間に机の右上の電話が鳴った。片手でキーボードを操作しつつ残る片手で受話器を握った瞬間、キーボードを打つ指が微妙にぶれた。なのに勢いでそのまま送信してしまい、“ヤバイ”と思ったときはもう遅かった。背中を冷や汗が流れまくる。電話を早々に済ませて送信メールをチェックすると絶望的な結果が待っていた。最後に“競馬ブック村上”と書いたつもりが、“競馬ブックむせ紙”になっていたのである。取り繕いようのないミスに茫然自失。もう眩暈がした。
なぜ名前を入れてメールを完成させてからチェックしなかったのか。そして、電話に出てから送信するか、送信してから電話を取るべきだったとまるで小学生のように反省したが、だからといって送ったメールの内容が変わるはずもない。やむなく、有り体に状況説明しつつ自身の軽率さを恥じる謝罪メールを再度送信。しばらくは落ち込んだ。しかし、後刻に頂いた返信メールには用件に対する返事だけが粛々と書かれていて、私のミスには一切触れていなかった。この優しい気遣いと気品溢れる対応(あまりの間抜けぶりに呆れて無視された可能性もあるが)には涙が出そうになった。二度とこの手のミスは繰り返すまいと再度深く反省した。
情けない話ばかりでは原稿に区切りをつけられないので最後は少し締まった話題を。先日、久しぶりに藤田伸二騎手と話した。以前に競馬道オンラインのジョッキーパラダイスというコーナーで対談して以来だから会うのは約4年ぶりだが、赤帽の頃からの顔見知りでブランクを楽々乗り越えて話が弾んだ。若い頃はビールしか飲まなかったはずの彼だが、いまや焼酎のロックを次々と飲みほして平然としているのだから別人である。世間では頑固で一本気のイメージがあるようだが、譲れない一線にこだわるのは人間として当然のこと。いざ会話をしてみるとツボを心得たトークで盛り上げ方も笑いを取るセンスも抜群。頭の回転が早いので会話して飽きることがない。競馬談義、騎手論と興味深い話がたくさんあったので紹介したいが、ここで内容を書くのはルール違反。詳細については4月13日発売の週刊競馬ブック“藤田伸二騎手インタビュー”をご覧いただきたい。
競馬ブック編集局員 村上和巳