瞬く間に3ヶ月が過ぎた。例年だと寒い時期は会社と家を往復するだけ。ひたすら鍋で熱燗というワンパターンの日常を過ごしてきたが、今年は思うところがあって寒さに負けずにアクティヴに過ごそうと決心。この3ヶ月間にいろんなところに出向いてたくさんの人と会って酒を酌み交わした。長く義理を欠いていて気になっていた人たちともひと通り顔を合わせて会話できただけでなく、ミュージシャンのライヴにも2度足を運んだ。自分の生活圏に引き籠っていてはとても味わえない愉しさや刺激を味わえたのだから言うことはないのだが、自身の年齢を無視した強行軍だったためかここにきていささか疲労が出てきている。
先週半ばに突然喉が痛くなり咳が止まらなくなった。時間が経過するにつれて微熱が出て歯茎まで腫れてきた。俗に何とかは風邪を引かないと言うが、私もその何とかに属するようで3年に一度ぐらいしかこんな症状を経験しない。編集部は向かい合わせに机が並んでおり、咳とクシャミを延々と繰り返す私の様子に周囲は呆れ顔。やむなく翌日からマスクをして出社したが、今度はその様子を見た一部のスタッフが、やれ“お喋り防止用や”とか“もう2、3枚重ねんと効果ないやろ”と嬉しそうに挑発してくる。通常だと相手の軽口を3倍にして返すのだが、そんな元気もなく黙ってウンウンと頷くのが精一杯。相手はすっかり拍子抜けしていた。
そんな状態でも高松宮記念の馬場入場が始まるとテレビにかじりついて観察。このレースの週刊誌や新聞の記事を担当した立場でもあり、成績を調べて各馬を分析。自分なりに結論を出していた。スプリンターとしての資質の高さならスリープレスナイトとファリダットが双璧だが、前者は誤算があってぶっつけ本番のローテーション。その点、後者はこのレースを目標にキッチリと仕上げられていた。テレビ画面から伝わってくる気配を確認した上で自信満々にパソコンで馬券を購入。ファリダットを軸にした馬連で相手はスリープレスナイト、ビービーガルダン、ローレルゲレイロ、トウショウカレッジ、ソルジャーズソングの5頭に絞った。この時点では咳も止まり熱も治まって復調気配。馬券を当てて風邪をぶっ飛ばすつもりでいたが、現実は甘くなかった。
ここから先は単なる愚痴になるので思い出したくないが、我が本命ファリダットは発馬のタイミングが微妙に合わず、いつも通り後方を追走。直線で何とか外に持ち出して差を詰めにかかったが、ハナを切ったローレルゲレイロがそのまま押し切る決着になってはなす術なし。当然ながら馬券作戦で完敗を喫しただけではなく、レースが終わるのを待っていたかのように咳がぶり返して頭痛にまで襲われる始末。その後は朦朧としながらも通常業務を何とか終了してそそくさと帰宅。普段のようにレースのVTRを見直すこともなくベッドに潜り込んだ。やっぱり馬券は当てなくてはいけない。そう痛感すると同時にすぐに寝込んでしまっていた。
高松宮記念の前半1000メートル56秒0は昨年より0秒7遅く、勝ちタイムも0秒9遅かったが、振り返ってみると昨年は前半が想像以上のハイペース。そのぶん時計も速くなっていた。このレースが3月の中京に移行してからは、良馬場前提で1分8秒前後の決着が多くなっており、今年も例年と変わらない流れになったと考えるのが妥当だろう。直線で一旦はスリープレスナイトに交わされながら差し返してこれを突き放したローレルゲレイロ。まるで藤田伸二騎手の気迫がそのまま乗り移ったようなレースぶりには脱帽するしかなかった。私が狙ったファリダットは「一気にバテてきた馬を回避するために外へ逃げる(持ち出す)しかなかった」と四位洋文騎手が話していたように、距離経験の少なさが結果として出たように思う。それでも上がり3ハロンの脚はメンバー最速の34秒4。今後1200メートル戦を重点に使ってレースを覚えさせていけば秋には巻き返せるはず。いささか気の長い話ながら、10月4日のスプリンターズSの勝ち馬はファリダットで決まった。
競馬ブック編集局員 村上和巳