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外国人は社交辞令がお上手。私が名刺を渡して簡単な挨拶をするとごく自然な笑顔でこんな言葉が返ってくる。言葉のキャッチボールだったら私の得意ジャンル。反射的にあれこれ突っ込みたくなるが、相手は片言の日本語しか話せないフランス人。英語すらまともに喋れない私が即興でアホなギャグを連発すると通訳の方が呆れ果てて帰ってしまいそう。残念ながら我慢した。爽やかで紳士的な人物というのがクリストフ・ルメール騎手の印象。前任者とはまったく違うスタイルでハーツクライやリトルアマポーラを勝利に導いた騎乗ぶりからするとかなり自己主張の強い人間かと思っていたが、その素顔は実に穏やかで勝負師とは思えない雰囲気だ。騎手であるときとプライベートの時間帯とオンとオフの切り替えがうまい人間なのだろう。会話に織り交ぜる独特のジョークにも日本語が混じり、寿司が大好きとの話からも日本文化に馴染んでいるのが判る。
「久しぶりですね。先週のブエナビスタですか? ええ、力さえ出し切れば勝ち負けになるとは思っていました。終わってみれば期待通りの内容。能力の高い馬ですよ」
幾分長めの髪をオールバックにまとめている安藤勝己騎手。精悍で男臭い表情は相変わらずだが、そんななかにも年齢相応の渋味を感じさせる。2年前にも同様の企画で岩田騎手と対談してもらったが、その折に「東京コースで結果を出せないのが悩み」と漏らす相手に対して「内か外かなんかで悩まないの。東京の4コーナーなんて直線だと思えばいいんだよ」とのアンカツ節が炸裂。立ち会った私はまさに目から鱗が落ちる思いだった。その後、岩田騎手が東京コースでバリバリ実績を残すようになり、「こうなるのが判ってたからあまり教えたくなかったんだけど、相談されたらなんでも喋っちゃうんですよね、俺って」と笑っていた勝己さん。このおおらかさも彼の魅力なのである。読者の方もそのあたりを理解されているようで、今年の後半に“またアンカツさんと誰かの対談が読みたい”とのメールがかなり届いたため、再度ご登場願った次第。今回は相手のルメール騎手を立てて一歩引くスタンスを取っていたが、そのあたりの配慮もさすがだった。
対談の人選を決めた段階で勝己さんは今年のG1級レースでは未勝利、ルメール騎手はエリザベス女王杯の1勝だけだったが、その後、阪神JF、JCダートでそれぞれが優勝。カラーページにふんだんにレース写真を使えることになった。しかし、ある程度は覚悟していたものの、やはり今回の対談は難しかった。日本人とフランス人の対談なのだから当然ながら通訳が必要となる。もちろん、通訳の方が頑張ってくれたのは言うまでもないが、専門用語が多い競馬の社会の話題を取り上げつつ双方の競馬観や細やかな騎乗技術を噛み合わせるというのはまさに至難。時間もかかった。それでも2時間半ほどで対談が終了。後半は日本とフランスの競馬の違いや若手騎手に対するアドバイスなどで盛り上がった。この企画にご協力くださった皆さん、ありがとうございました。なお、この対談は週刊競馬ブック金杯号に掲載の予定。ファンの方はお楽しみに。
最後に、安藤勝己、クリストフ・ルメール両騎手と私が一緒に写っている写真を嬉しがって紹介しよう。カメラマンの四斗クンが撮ってくれた写真を見て改めて思ったことがふたつ。数週前のコラムで書いたように「ヴェートーベンというよりはキダタロー」と私の髪型を表現したA記者の言葉は実に的確だったというのが第一。そしてもうひとつ、これは昨年の四位洋文VS福永祐一対談に割り込んだときの写真もそうだったのだが、騎手というのはなぜみんな顔が小さいのかというのが第二。同世代の人間と比較する限りでは顔が大きいという実感がなかったが、ふたりよりも一歩後ろに位置していてあのデカさ。この歳になって少々悩んでいる。サラブレッドの世界では顔の大きい馬はあまり走らないとの説が一般的。その昔「馬も人も顔のデカい奴は使えんのが多い」と話していたある調教師の言葉を思い出すのである。
競馬ブック編集局員 村上和巳