・エイシンドーバー ・カンパニー ・キストゥヘヴン ・サイレントプライド ・スーパーホーネット ・スズカフェニックス ・ファイングレイン ・ブルーメンブラット ・マイネルレーニア ・マルカシェンク ・ローレルゲレイロ
ずっと伸び放題にしていた髪を切った。私の髪はとにかく剛毛でクセ毛。本人の思い通りにはまずならない。かといって出勤前に鏡に向かってセットなんかするわけもない。やむなく長く伸ばして首の後ろで束ねて済ませていた。こうすれば重力の法則に従って全体が比較的大人しく垂れて楽なのだ。しかし、30センチ、40センチと伸びるにつれて今度は洗うのが面倒。シャンプーするだけで10分、更にリンスだなんだとなると20分もの時間を要す。秋には背中の真ん中まで伸びてしまった上に、綺麗にカットなどしていないので裾の毛がくたびれた百合の花びらみたいに前後左右に広がる。競馬新聞の見出しふうに表現するならまるで百花繚乱(ちょっと違う?)。仕方なくふたつ折にしてくくると今度は兎の尻尾みたいに丸まって超不細工。まるでコメディアンだ。電車の二人掛けの座席に坐ると隣は常に空席。ひどいときは四人掛けの向かい合わせの席に私一人が坐り、他の座席はすべて埋まって立っている人間まで出る状況。怪しい人間には近寄るなとの雰囲気が蔓延している。周囲から冷たい視線を浴びせられることは若い頃から慣れていたが、白髪交じりのこの歳になるとさすがに応える。そんなこんなで思い切ってカットに行ったのだが、これがまた大失敗。思想も方向性もないままに漫然と短くしたところ髪がまるでまとまらず大爆発。まったく収拾がつかなくなった。かといって再度カットに行く勇気もない。その夜は不貞腐れたまま酒を飲んで寝た。
「あら、髪の毛切ったんですね。ヴェートーベンみたい、(0秒1間を置いて)お似合いです」
「ヴェートーベンというよりは……、むしろキダタローって感じですね」
翌日起きて鏡を見ると気持ちが暗くなった。しかし、生来の楽天的な性格が頭をもたげ、“オダギリジョーとまではいかないが、中年になった瑛太(こんな字だったかな)ってとこかな”などと知る限りの個性派ヘアー俳優を無理矢理イメージして気分転換。なんとか出社した。しかし、当然とはいえ周囲のジャッジは厳しかった。まずは打ち合わせで来社したライターの芦谷有香さんの“ヴェートーベンみたい”の言葉のあとの0秒1の空白を鋭く看破した。つまり、その僅か0秒1の間に笑いを噛み殺しつつ気持ちを入れ替え、“お似合いです”と結ぶ瞬間芸を見せた彼女はさすがだが、一瞬の逡巡があったのと“お似合いです”の語尾が軽微に揺れ動いたのも見逃さなかった。誰が見ても変な髪型なのだからこの反応は仕方ない。しかし“ヴェートーベン”ならまだイメージとしてはギリギリ許容範囲だが、その後に浴びせられた小社・青木行雄記者の“キダタロー”には落ち込んだ。関西地区以外の方にはあまり馴染みがないかもしれないが、地元では“浪花のモーツアルト”と呼ばれ78歳の作曲家兼タレントで、ロンゲのカツラ(と思われるが、未確認)をつけている人物だ。著名で幅広い活躍をされているのは認めるが、ヴィジュアル面で“キダタローに似ている”と言われて喜ぶ人間はまずいない。にもかかわらずキッパリと断言した青木記者の自信に満ちた言葉には傷ついたが、そのひと言で編集部は笑いの渦。“受けたから、まあいいか”とすぐに現実を享受したあたりは私も一端の関西人になっているようだ。
そんな厳しい日々が続いたというのに先週は業務処理がいつになくスムーズ。土日の馬券も珍しくプラス計上となり、エリザベス女王杯の3連複もほぼ1点(3連単でも楽々獲れたのに弱気になったのが悔やまれるが)でゲット。実に快調で気持ちのいい1週間となった。“髪を短くしたことで新陳代謝が促進され、血液の循環も良くなって本来のシャープさが戻ってきたに違いない”と自身を競走馬に見立てて図に乗っているが、ここで問題となるのは今週である。関西と福島地区は月曜開催の変則日程で週刊誌の発売が火曜日となるため、日曜日は午後から競馬場に出掛けることになった。関西地区でG1レース当日に競馬場に行くのは内勤になって初めてのこと。いまから歳甲斐もなくハイテンションになっている。マイルCSの馬券をぶち当てれば、次週は日本のダービー馬3頭が出走する歴史的なジャパンCが待っている。こうなったら連戦連勝で突っ走ってやろう。栗東のモーツアルトの豊富なキャリアと底力を見せつけてやるから、待ってろよ青木行雄!
競馬ブック編集局員 村上和巳
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