・アポロドルチェ ・ウエスタンビーナス ・カノヤザクラ ・キンシャサノキセキ ・ジョリーダンス ・シンボリグラン ・スズカフェニックス ・スリープレスナイト ・タニノマティーニ ・ビービーガルダン ・ファイングレイン
「数字の上ではたしかに16勝しましたが、だからといって野茂さんに並んだなどという意識は持っていません。あのひとは僕らのような恵まれた環境でスタートした訳ではありませんし、どんな逆境のなかでも自分のスタイルを変えることなく戦い続けて、なおかつ結果を出してきました。精神面、肉体面ともに飛びぬけたレベルだったからこそで、とても真似のできるものではありません。野茂さんは単純に勝ち星の数だけで語ることのできない偉大な投手であり、僕自身にとっては一生尊敬する先輩です」
これは米メジャーリーグで16勝目を挙げたときの松坂大輔投手の発言。移籍2年目で野茂英雄投手の日本人記録に並び、そして後日にそれを更新したのだが、先輩日本人投手に対する畏敬の念を込めた言葉には一流プレイヤーだけが持つ独特の重みが感じられた。ポスティングシステムでレッドソックス入りした同投手には整った環境が用意され、活躍して当然との見方が常識だった。しかし、野茂投手の場合は日本人がメジャーで通用するはずがないと思われていた時期の挑戦であり、その背景には夢を追うだけではなく、時代遅れの精神論がはびこる日本野球界への不満もあったようだ。故障と戦い続けながらも好きな野球を続けるにはメジャー挑戦しか選択肢がなかったとの記事を以前に目にしたが、孤立無援の渡米にもかかわらず自らの右腕だけで新たな歴史を切り拓いた野茂英雄。彼が米国に足跡を残したからこそ現在の日本人選手たちが続いているのである。
「福永洋一の息子でなければ、騎手の道は選んでいなかったでしょう。絶頂期にあって志半ばにして倒れた父。その姿をずっと追いかけてここまで生きてきました。でも、乗れば乗るほど、勝てば勝つほどにその姿が遠い存在になっていきます。勝ち星が並んだからといって胸を張ることはできません」
9月27日の阪神競馬場で行われた第4レースでリーティラ号が勝った。この馬に騎乗していた福永祐一騎手はJRA通算983勝となり、父・洋一さんの生涯勝ち星と並んだ。過去のこのコラムで何度か取り上げてきた内容と重なるが、福永洋一元騎手は日本競馬史上で唯一人の天才である。いまでも古い映像で彼の騎乗を見直すことがあるのだが、何度見ても言葉で説明できない場面がいくつもある。どんな意図で、どんな判断で馬を御したのか解明できないにもかかわらず、先頭でゴールを駆け抜けていた洋一さん。全盛期の連対率は常に4割強、勝率は2割5分を超えていた。それも、いまのトップジョッキーほど有力馬が集まりにくい時代の成績だったのだから凄い。そういったことを考えると「勝てば勝つほどその姿が遠い存在になる」との言葉は本音だろう。「ファンの方の記憶に焼き付いて伝説になっている父。どんなに腕を上げてどんなに勝ったとしても、そんな存在に僕が勝てる訳がない」と以前に話していたが、その気持ちは痛いほど判る。だから息子は息子として自分の道を歩めばいい。ただ、個人的に叶えて欲しい夢がひとつ。それは洋一さんが7度挑戦して果たせなかったダービー制覇である。年々進化を続ける祐一のこと、そう遠くない時期に達成してくれると信じたい。
9月28日の札幌競馬場で行われた第10R朝里川特別でアースコマンダー号が勝った。騎乗していた三浦皇成騎手はこれでデビューから通算64勝をマーク、武豊騎手の新人最多勝にあと5勝差まで迫っている。例年、一流どころの騎手が集結する激戦区の北海道シリーズに参戦し、コンスタントに勝ち星を積み重ねているその姿には正直なところ驚かされる。このペースで勝ち続けるとあと1、2週、遅くとも10月中に最多勝記録が更新されるのは間違いなさそうだ。歴史的な記録が誕生する瞬間に立ち会うのもスポーツの醍醐味のひとつであり、十代にしては思慮深く一種独特のオーラを感じさせる若者と聞く彼が記録達成の際にどんなパフォーマンスを披露するのか。それを受けて武豊はどんなコメントで祝福するのだろうか。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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