・カヴァリエ ・ガンズオブナバロン ・スガノメダリスト ・セイウンワンダー ・ダイワバーガンディ ・バンガロール ・マッハヴェロシティ
・エリモプリンセス ・カヴァリエ ・ジャングルストーン ・ツルマルジャパン ・デグラーティア ・レディルージュ ・ワンカラット
モノレールを降りて改札口を出ると目の前に専用通路が広がり、それを直進するとすぐに競馬場の入り口に辿り着く。階段をゆっくり降りていくと右下の方角にパドックが広がっており、3レースに出走する各馬が周回を繰り返している。この日の馬券作戦のスタートは午後からと決めていたのでパドックには向かわず2階のファーストフードコーナーを覗く。若者たち数人のグループや家族連れをちらほら見かける程度で日曜日のこの時間帯だというのに比較的すいている。各コーナーのメニューをひと通りチェックしてみたが、小倉入りした前夜に懐かしい顔に再会して飲みすぎたため、軽いもの以外は胃が受け付けそうにない。やむなく上の階にある和食の店に向かう。ごく普通のメニューの朝定食がワンコインで足りるのだから満足すべきだろう。深酒をした翌日に迎い酒と称して“ビール一本”と注文するのはよくあることだが、競馬場は神聖な職場であり、しかも勤務時間中でもある。さすがに我慢して冷たいお茶をもらった。戦いはこれからなのだから。
食後は1階のゴール前、パドック、2、3階の一般席といったあたりを徘徊してライヴを楽しんでいるファンの姿を見て回り、持ち前の調子のよさで数人の方と世間話もした。「毎年、夏の小倉を指折り数えて待っとる。生で馬が見られる地元開催では負けられんけね」と言いつつパドックで狙い馬を教えてくれた老ファンのかくしゃくとした姿に感心。ローカル競馬ならではの雰囲気も十分に味わえた。一般席で2時間ほど過ごしてからはゴンドラに上がり、広報室、放送関係のブースといつも通りに顔を出して最後に記者席へ。まずは栗東本社から届いていた週刊誌用のゲラチェックを済ませ、他にも雑用を幾つか処理。あとは特別登録が発表される5時すぎまで待望の自由時間。馬券をビシビシ当てまくる楽しい時間帯に突入である。
土曜日の午後に乗った新幹線の車中で馬券検討を繰り返すこと2時間強。例年だと途中で寝込んでしまいがちだったが、今年は信じられないほど集中して各レースを分析。“ゴールが見えてきた”レースも幾つかあって自信満々の小倉入りだった。しかし、競馬道は険しい。小倉の6、7レースを連続して外して意気消沈。気分転換に手を出した新潟10レースのヴィヴィッドカラーの単勝(2.8倍)ですぐさま立ち直る。「競馬の基本はやっぱり単勝だよ、単勝。安くとも単」など訳の判らない独り言を呟きながら小倉、新潟、札幌と次々と手を出す。読み切れなかったレースまで勢いで買いまくって、それでプラスに持ち込めるほど甘くないのが競馬。途中で予算をすべて使い果たし、気づけば旅行バッグの底にしのばせていた非常用軍資金を持ち出す破目になっていた。
ちょっと馬券が当たれば“向かうところ敵なし”とばかり図に乗り、外れ続けて資金が乏しくなると“この世の不幸をひとりで背負っている”とばかり限りなく落ち込む。こんな性格で二十数年間もよく現場記者生活を送れたと思うが、幾ら年齢を積み重ねても変わらないのが人間の本質。新潟記念はフサイチアソート(5着)の単複で勝負して、キーンランドCは2着のビービーガルダンから流して勝ったタニノマティーニ(最低人気)がなかった。心情馬券は邪道だと言いつつ、現役時代に好きだったナリタトップロードの産駒ナリタスパークと心中して完敗。連敗が続いたこのあたりではもう身も心もボロボロ。これ以上馬券に手を出すと土産を買えないのはもちろんのこと、新幹線で缶ビールさえも飲めない。そう思いながら最後の資金に手を伸ばしていた。
一種の諦観に支配されて肩を落として小倉最終レースの返し馬を眺めていると目の前に飛びぬけて気配のいい芦毛馬が現れた。適度に気合いが乗り、スピード感あふれたそのフットワークはまさに絶好調。走りたくてたまらないといった感じが伝わってくる。父フォーティナイナー、母エイダイクインの4歳牡馬で、500万に降級して今回が2走目。まさに走り頃でそう人気していないのもいい。こうなったら土産代もビール代もいらない。そう決心した瞬間には馬券売り場に向かって走っていた懲りない私だった。狙った7番人気のグランプリサクセスは中団追走から4角で一気に先頭に躍り出て、ゴールでもなんとか2着を死守。馬連2860円の配当をプレゼントしてくれた。日曜日の夕方に小倉を出た新幹線のなかで「返し馬さえしっかり見れば馬券なんて簡単、簡単」と騒ぎつつ缶ビールをグビグビやっている怪しげなロン毛の中年オヤジの姿があったのは言うまでもない。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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