・クリスタルウイング ・サクセスブロッケン ・ショウナンアルバ ・スマイルジャック ・タケミカヅチ ・ディープスカイ ・ブラックシェル ・マイネルチャールズ ・メイショウクオリア ・モンテクリスエス ・レインボーペガサス
テレビの画面は東海Sのゴール前をアップで写し出している。人気薄の2頭が叩き合いになると、私の右手から「コバヤシ〜ィ、コバヤシ〜ィ、よし!」と搾り出すような声が聞こえてきた。編集部の若手記者Sの気合いの入ったその声は人気薄のヤマトマリオンに騎乗している小林徹騎手を応援しているのだ。最後の「よし!」は102.2倍の単勝馬券的中を確信した瞬間。編集部で一緒にテレビ観戦した新人記者たちは「なぜあの馬が狙えたんだろう」と不思議がっていたが、私の場合は「コバヤシ〜ィ」の声が出た瞬間に事情を察した。Sの以前の携帯のメールアドレスにこの馬の母ヤマトプリティの名前が使われていたのを知っているから。つまり、母親を現役時代から応援していた彼は、この血統がどんな条件下で好走するのかを把握しているのだ。こういったデータや知識を有効に活用できれば馬券作戦上では大きな武器になり得る。
オークスでは業務部が盛り上がった。Mさん(私ではない)が馬券を当てたのだ。それも3連単440360円という高配当を。彼はデータ処理ひと筋三十数年、私より年長の大ベテラン。競走馬に関するあらゆるデータに精通していて馬券のセンスも抜群。2日前に「オークスの狙いは?」と声をかけたら「桜花賞の1、2、3着でいけるんちゃうか。3連単で組み合わせたら最低で700倍。それに気になる馬を足したら獲れるやろ」との返答。気になる馬にトールポピーがいればもう4頭ボックスで44万馬券的中だ。独自のデータ分析で桜花賞以外の路線の馬すべてを切り捨てたあたりはさすがだ。このMさんは昨年も66万馬券を的中させている実力派。物静かな人物だが、唯一クレームをつけるとすれば欲深いこと。どんな穴馬券を的中させても満足しない。レース後は「3着と4着が逆やったら100万馬券やった」「もう少し枚数を増やしておけば」と愚痴のオンパレード。裏読みすればはしゃいで周囲を騒がせまいとする配慮があるのかもしれないが、貪欲さも馬券的中には不可欠のようだ。
そんなMさんがオークス直後に「あのレースぶりでは降着があるんちゃうか」と漏らした。全体を克明に写し出していないテレビ画面でもそう思えるほど直線はゴチャついた。長い審議の結果、入線した通りの着順で確定したが、しばらくしてJRAから『トールポピー号の騎手池添謙一は、最後の直線走路で内側に斜行したことについて平成20年5月31日から平成20年6月1日まで騎乗停止(開催日2日間)となりました』とのファックスだけが流れてきた。日曜夕方6時前で週刊誌の締め切りを過ぎた時間帯だったが、なんとかこの記事をニュースぷらざに掲載した。それから更に時間が経過した段階で追記として追加のファックスが届いた。『トールポピーの内側への斜行による被害は走行妨害には至らないが、継続的かつ修正動作の無い危険な騎乗であると認められたため、騎乗停止の制裁となりました』というのがそれである。ニュースぷらざには『最後の直線走路で内側に斜行して他馬の進路を妨害したため』と書いたが、この部分は誤り。つまり“他馬の進路を妨害した”のではなく、“継続的かつ修正動作の無い危険な騎乗”が制裁の対象になったとここで訂正させていただく。
月、火、そして今日(水曜日)の昼までに小社編集部宛に投書が山のように届いた。その内容は“オークスのJRAの裁定には納得できない”“なぜ降着にしなかったのか”“判断基準がわかりにくい”といった批判的なものばかり。編集部で協議した結果、6月2日発売の週刊競馬ブックでJRAの裁決の問題点について取り上げることにした。正式なタイトル、中身についてはこれから詰めていくことになるが、“小牧場の生産馬はアウトにして大手牧場の馬はセーフにする”といった憶測が乱れ飛び、“公正競馬とは名ばかりで裁定基準が明確でない”と戸惑うファンの立場を考えると、現状を放置していてはファン離れが加速するだけと考えてのこと。JRAに対しては、まずルールを明確にすること。そして、裁定委員に外部の人間(騎手経験者も含め)を加え、審議から最終決定に至るまでをガラス張りにしてファンにわかりやすくすること。最後に、審判部門をJRAから切り離した独立組織にすることなどを緊急提言しようと思っている。この原稿の締め切り時間が過ぎていて駆け足での説明になったが、関心のある方は週報に目を通していただきたい。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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