・アイポッパー ・アサクサキングス ・アドマイヤジュピタ ・アドマイヤフジ ・トウカイトリック ・トウショウナイト ・ドリームパスポート ・ホクトスルタン ・ポップロック ・メイショウサムソン
世間はゴールデンウィーク真っ只中だが、生き物を扱っている競馬社会は連休とは無縁。厩務員たちは日々担当馬の身の回りの世話に追われ、助手たちは毎朝馬の背に跨って調教をつけ続ける。そんな生活が1年中延々と続くのだ。週末に競馬がある限り我々マスコミも関係者と同様に普段となにひとつ変わらぬ生活を送る。原則的に我々は週休2日制だが、本来休みであるはずの月火も最近は会議や打ち合わせ等の予定が入って完全休養できる日が少ない。そのぶん気分転換もままならずにいるが、たとえ祝日がすべて休みになったとしても計画性皆無の私の場合はいまとそう変わらない無駄の多い毎日を過ごすことになりそうな気がしている。
ある日曜日の朝、出勤途中のJR草津駅で騎手のA君とすれ違った。競馬開催日だというのに旅行用バッグ片手にホームへ急いでいる。「えらい人に見られちゃいましたね。考えるべきテーマができたのでいまから旅に出るところなんです」と告げつつ新快速に飛び乗った彼。もちろんこの場合の“えらい人”という言葉は“偉い人”ではなく“厄介な人”のニュアンス。うるさいオヤジに目撃されたのは相当に憂鬱な出来事だったようだ。この日の彼は騎乗停止期間中で朝の調教を終えてすぐに移動を開始したと思われる。騎手である限り通常では経験できない日曜日の休日。果たして彼はその貴重な時間を有効利用できたのだろうか。
28、29日(月、火)は珍しく予定がなかったためノンビリと休日を過ごした。やったことと言えば火曜の夕食を作ったぐらいだが、料理は最近の私の数少ない趣味のひとつ。去年の上半期はピザやパスタ類に嵌り、熱燗の季節になってからは和食系に方向転換。鍋料理や漬け物(主に千枚漬け)に熱中した。29日のメニューは炊き込みご飯で銀杏の殻を割って実についた薄皮をはがし、軽く下味をつけたごぼう、揚げ、椎茸などと共に炊飯器で炊き上げた。味付けは知人に教わった市販の安価な麻婆豆腐の素(とろみ袋は使わない)だが、これが意外に美味。つれあいにも好評だが、裏読みすると少々の不満には目をつぶってジャッジを甘くすることでお調子モンの私をより多く台所に立たせようとする戦略があるのかもしれない。しかし、まあ、それはそれ。パソコンや本などで活字を追ってばかりいると最近は首筋や肩が凝ってつらい。当初は酒を飲むにあたって自分の好きな肴を並べようとしたのが発端だが、包丁片手に台所に立つと凝りを感じなくなるから不思議である。
中距離戦で活躍していたBという馬がある時期から凡走を繰り返すようになった。関係者はメンバーの弱い平場に使って勝とうとしたが、そこでもBはゴール前にくると集中力が途切れて自ら走るのをやめた。その後も何度か平場に出走したもののレース内容は変わらない。診療所で検査をしてもどこといって悪いところはない。困り切った関係者はBを短距離戦に使った。「年中同じようなレースを繰り返したため馬が走ることに飽きたのではないか」との乗り手の意見がヒントになった。激しい流れの短距離戦を経験したBは2走目で素晴らしい追い込みを見せて2着に入り、その後は中距離戦に戻って2連勝。準オープンクラスまで出世した。この手の話は短期間に馬を入れ替える習慣がなかったひと昔前の時代によく耳にしたが、最近は馬が飽きる前に短期放牧に出して気分転換させるケースが多くなっている。単調なリズムで生活を続けるとストレスがたまってくるのは人も馬も変わらない。だからこそそのストレスを解消させて気持ちをリフレッシュさせることが必要となる。
思い立って5月に予定をふたつ入れた。京都競馬場に行って久しぶりに現場の空気を味わうことと、あるベテランミュージシャンのライヴを見に行こうというのがそれ。適度に刺激を受けることで古ぼけて緩み切った脳を少しでも活性化させようというのが狙いだが、一旦生活圏を離れるとあとさきを忘れて目の前の事象に熱中してしまう私。馬券でやられて帰りの電車賃がなくなったり、二日酔いで仕事を休んだりしないように気をつけるつもりだ。せっかくの気分転換も度が過ぎてオーバーワークになっては意味がないのだから。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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