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4月1日、火曜日朝。唐突にトレセン行きを決断。5時半に家を飛び出した。朝のトレセンは一昨年の10月以来だが、調教風景を見たくなった以外に他に処理しておくべき用件も幾つかあった。一号線は予想通りガラガラ。トレセンに車で乗り入れられる6時半までには楽々到着できそうだと気が緩み、FMを聴きながら鼻歌混じりに運転していると突然“工事につき片側通行”の表示。一気に渋滞に巻き込まれた。まずい、このままだと間に合わない。そう考えて車の少ない横道に突入。方角も判らぬまま右折左折を繰り返して奇跡的に渋滞をさばけた。道に迷うのが日常茶飯事の私にしては珍しく6時25分にトレセン到着。方向音痴を一旦は返上した。
「頭のうしろに妙なモンぶら下げて。相変わらずなんとも言えん出で立ちやね」
いきなりカウンターパンチを飛ばしてくるのは大橋勇樹調教師。背中で束ねている私の髪の毛をネタに攻めたてる。「外れ馬券の山で散髪代が消えてばかり」と交わしながらご挨拶。持ち乗り時代に担当していたコスモドリーム(1988年のオークス馬)を取材したのが縁で彼と会話をするようになった。あくまでマイペースを貫く冷静なタイプだが、調教師になって4年ほど。最近は合う度に貫録が出てきている。
「朝からおもろい顔見られたから、飯でもおごったろ。なに食うんや?」
これは山本良樹厩務員。食堂で蕎麦を頼むと横から私の分も支払おうとする。久しぶりに会った人間に奢られる訳にはいかんと押し問答になったが、「任せとけ。俺、いまブルーコンコルドやってるんやから」のひと言で力関係は明白に。思わず「おばちゃん、おぼろ蕎麦頼んだけど、天ぷらに替えて」とメニュー変更する私。しかし、朝イチの天ぷらは思っていた以上にコッテリ。あ〜あ、せこい判断が完全に裏目に出てしまった。
「髪、ごっつ白なったな。ずっと現場にいとけばそんな頭にならんかったやろに」
水元良治(りょうじ)調教助手のぶっきらぼうな物言いは相変わらず。職人肌で言葉少なだが、自分が跨っている馬のジャッジは正確無比。「今度あたりは動けるやろ」のジャッジで何度穴馬券をゲットしたことか。馬の背での颯爽とした姿は昔も今も変わらない。でもな、良治、内勤になったからって仕事を山ほどしている訳でもなければ特別に気を遣う訳でもない。そんな私の性格は知ってるだろ。ただ歳をとっただけなんだから。
「久しぶりにトレセンに顔を出したってのはいいことですが、長浜厩舎がどこだったか忘れたってのは論外ですよ。村上さんが現場にいた頃からずっと同じ場所にあるんですから。罰として明日もトレセンにきたらどうですか。記者だったらやっぱり水曜の追い日にこないとダメでしょう」
最後に飯田祐史騎手にとどめをさされた。長浜厩舎を探してトレセンをうろつく私の情けない姿を彼は馬上からしっかり観察していたのだろう。なんなら年内に一度ぐらいは水曜日にも顔を出すことにするから、この話は長浜博之調教師に言わないでおいてくれるかな、祐史。もし、博之さんの耳に入ったら、あまりの間抜けぶりに呆れて二度と口を利いてくれないかもしれないから。それと、電話で私に松田博資厩舎の場所を教えてくれた取材班の井上政行記者にもひと言。私がトレセンで迷子になった話は他人に口外しないでくれよ、頼むぞ。
「いやあ、じっとポーズを取れない気性の馬だから、なにかあると困るので極力撮影を辞退してたんです。えっ、天皇賞のときですか?俺の馬の写真が必要だっていうのならできる限り協力しますよ」
これはアドマイヤモナークを担当している小園隼人調教厩務員。週刊競馬ブックのフォトパドック用の写真撮影を断られ続けてカメラマンが悩んでいると知り、誠実なタイプの彼が理由もなく断る訳がないと事情を聞きに厩舎まで足を運んだ。たしかに気性の激しい馬や立ち上がる癖のある馬などは静止写真を撮るのが難しい。取材する側の都合で無理を頼んで、その結果として事故が起きたりすると取り返しがつかない。隼人よ、愛馬の当日の気配を確かめた上でオファーを受けるかどうか決めてくれればいい。無理はしなくていいぞ。
読者の皆さんから“今週のフォトパドックにどうしてあの馬の写真がないのか”という抗議のメールをいただくことが少なくない。その都度説明させていただいているが、競走馬は生身であり、いろんな個性を持っている。それゆえに、現場ではこういったケースもあるということを理解していただければ幸いである。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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