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先日、久しぶりにレイナードスキナードのCDを聴いた。二枚組の最後の曲『フリーバード』のイントロでスライドキターが流れはじめると年甲斐もなく涙がこぼれそうになった。この『フリーバード』はオールマンブラザーズバンド(1960年代終盤〜1970年代前半に活躍)のリードギタリストで突然のバイク事故で若くして世を去ったスライドギターの名手デュアンオールマンの死を悼む名曲として全米でヒットした。古い洋楽ファンならご存知の方も少なくないだろうが、オールマンブラザーズバンドはブルースを基調にした泥臭くてパワフルなサウンドが売りで、南部出身として初めてメジャーになったグループでもある。時折彼らのCDを引っ張り出して聴くが、その奥行きの深さと完成度の高さにはいまでも舌を巻く。この年代には他にもオーティスレディング、ジャニスジョップリンといった偉大なヴォーカリストが不慮の死を遂げており、この3人に共通するのはミュージシャンとして完成途上の時期に突然命を絶たれたという点。エルヴィスプレスリーやジョンレノンの死もそれなりの衝撃はあったが、彼らの場合は音楽活動のピークを過ぎてから(独断だが)の出来事だったという点で聴き手としてある程度の気持ちの整理はつけられる。それに比べると前述の三人は天賦の才能を開花させる前に急逝しているのが悲しい。彼らに対する想いは数十年が過ぎ去ったいまも私のなかでは変わることがなく、老醜を経験することがない彼らは夭折と引き換えにして永遠の命を手に入れたということが言えるのかもしれない。
私の心のなかで死と引き換えにして永遠の命を手に入れたサラブレッドがいたかと考えてみたところ、3頭の馬の姿が浮かんできた。まずはキシュウローレル(15戦7勝、1972〜74年)がそれ。この快速牝馬には無条件で惚れ込んだ。デビューから連戦連勝。桜花賞はこの馬が勝つと信じ切っていたが、トライアル、本番ともに関東のニットウチドリに差される信じられない場面に遭遇。悪夢を見ているに違いないとしばらくは現実を受け入れられなかった。時系列ではなく思いつくままに書いているのは受けた衝撃の大きさを表現したいからなのだが、ハマノパレード(20戦9勝、1971〜73年)も個人的には好きな馬の一頭だった。牡馬にしては繊細なタイプで、なんとかビッグレースを勝たせたいと応援を続けたが、高松宮杯のゴール前でその夢はついえた。そして3頭目にグレートタイタン(35戦10勝、1977〜81年)の名前が浮かぶ。この馬がデビューした1977年に競馬記者になった私だが、当初はそれほどの関心はなかった。しかし、1980年秋の京都記念ではある理由からこの馬の単勝(4番人気)を確信を抱いて購入。それまでとは別馬のような凄みあふれる切れ味に痺れた。上記2頭はレース中の故障で予後不良となったが、この馬は調教中に心臓麻痺で倒れた。取材の合い間に駆けつけたところ、横たわって動かなくなった馬のそばで騎乗者が大粒の涙を流していた。私はその姿を見守るだけで声もかけられずただ立ち尽くした。この3頭はどれもが当時の大レースを勝てないまま競走生活を終えた馬だった。
当然といえば当然なのだろうが、テンポイントやサイレンススズカに代表されるようにあまりにも切れすぎる馬や速すぎる馬は他馬と比較するとどうしても故障する可能性が高くなってしまう。強さや華やかさ、そして激しさといったものを表現するその代償として自分自身の肉体を必要以上に消耗してしまうということなのだろう。アクシデントで世を去った馬たちの記憶もいつまでも切なく心に残るが、3月4日になってアドマイヤキッスが腸捻転で死亡したという知らせが飛び込んできた。この馬も現役では気に入っている一頭だっただけに残念でならない。間もなくクラシックの季節がやってくる。今年は夭折と引き換えに永遠の命を手に入れる馬が出ないように祈っておきたい。サラブレッドはその優れた血を次代に伝えることが使命なのだから。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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