・アルカザン ・ブラックシェル ・マッキーバッハ ・メイショウクオリア ・レッツゴーキリシマ
・コンラッド ・テイエムプリキュア ・トウカイワイルド ・ブラックアルタイル
北海道の旭川で独り住まいをしている八十代半ばの母には二、三週間に一度ぐらいの割り合いで電話を入れている。もうそろそろ娘、息子と一緒に住むようにしないかと勧めるのだが、なかなか耳を貸そうとしない。独り住まいの気楽さは何物にも代え難いだろうし、たくさんの思い出が残っていて周囲に知人もいる馴染みの土地から離れたくないのだろう。そういった気持ちがよく判るだけに無理強いするつもりはない。日常的なことを自分独りの力で処理できるうちは好きにすればいいと任せているのだが、「ついこの前も氷点下25度だった」などと聞くとそんな厳しい気候のなかではトラブルがあっても対応できないだろうと心配になる。今年の旭川の冬は寒いらしく、雪が降ると北の地に思いを巡らせることが多い。
近年の旭川は温暖化の影響で降雪量が減り気温も極端には下がらなくなったようだが、少年時代の私は氷点下30度を超える寒さを幾度となく体感している。関西の人間は「そこまで気温が低いと外には一歩も出られないでしょう」と尋ねてくるが、そんなことはない。まばたきをしないでいると上下の睫毛がくっつきかけたり、濡れたタオルを真っ直ぐに伸ばして持っていると数分で棒状になったりこそするが、厚手の防寒着を身にまとえば外を歩き回るぐらいは普通にできる。氷点下30度を超えると冷え込みすぎて雪が降ることはまずない。そしてごく稀にだが、晴れて風がない日には大気がキラキラと輝いたりもする。雲になるはずの水分が急激に冷やされることで空気中に結晶となって浮かび、それが太陽光線を受けて幻想的に煌めくダイヤモンドダスト現象が起こるのである。こんな日でも頬を赤く染めながら寒さを忘れて真っ白な野原を駆け回っていた記憶がある。
運転が下手だと自覚しているため車に積極的には乗らない方だが、北国育ちなので雪そのものはそう苦にならない。ギアの選択を考え、急発進、急停止を避け、ハンドル操作もゆっくりと行えばノーマルタイヤでも多少の雪なら克服できる。しかし、自分の運転よりも周囲のドライバーが怖い。先日も私の数台前を走っている車が小さな交差点で対向車と衝突した。アイスバーンでタイヤが滑ったときに急にハンドルを切ったのが裏目に出たようでまともにスピン。想定外の方向に車が突っ込んだのである。雪道運転の基本マナーを知らない人間が多すぎるのが怖いのだ。ちょっとのアクシデントでも乗っている馬が脚を捻ったり怪我をしたりする可能性がある馬運車の運転手の場合はハンドルを握るにあたって最大限の注意を払いつつ超安全運転を心がけているというが、雪道を走行した経験の少ないドライバーもそれぐらいの心構えで運転して欲しい。
週末に雪が降るケースが続き2週連続で月曜開催となった中央競馬。ファンの方々はもちろんのこと、馬の世話をする関係者の皆さんも突然の競馬中止や日程変更に巻き込まれて四苦八苦されたことだろう。我々競馬マスコミも新聞の作り直しや休日出勤と続いていささか疲労が残っている。今週こそ雪には遠慮してもらって通常通りの競馬開催ができるようにと祈っているが、本日(13日)の栗東も早朝からかなりの雪で午後乗りとなった。まだしばらくは雪との戦いが続きそうな気配だが、先日、北海道で小さな牧場を営んでいる知人から「立派な男馬が生まれたぞ」という嬉しそうな便りがあった。まだ雪深い北海道の牧場だが、間もなく次々と新しい生命が誕生する季節がやってくる。春はすぐそこまできているのだ。
競馬ブック編集局員 村上和巳
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