・アイルラヴァゲイン ・アストンマーチャン ・クールシャローン ・ステキシンスケクン ・ファイングレイン ・ペールギュント
・アポロドルチェ ・イイデケンシン ・サダムイダテン ・サブジェクト ・スマートファルコン ・タケミカヅチ ・ホッカイカンティ
2月4日、月曜日。目覚ましが鳴り響いて渋々ベッドから抜け出す。本来だとこの日は休日なのだが、中止となった1回東京2日目の代替競馬が組み込まれたことで急きょ出勤となったのである。私の場合は特に用事がなかったからいいとして、この日に予定を組んでいた人間も当然いる。内勤者1名がやむにやまれぬ事情で欠勤し、他にも早退を希望してきた人間が1名。週刊誌の締め切り直前の時間帯が人手不足でバタつきそうな嫌な予感に襲われる。少し早めに出社してやれることだけでも先に片付けようかと考えて朝食をとっていると携帯電話がブルブルブルと3回振動する。どうやらメールが届いたようだ。まあ、そう急くこともないだろうと思いつつも気になって目を通してみると送り主は現場取材記者の甲斐弘治だった。
「特別登録が出る前に会社に顔を出すつもりでいます。特別レースの検討記事など、やることがあればなんでも言ってください。時間は十分にありますから」
甲斐弘治は入社して編集を4年務め、その後に厩舎取材担当となって6年が経過している中堅記者。体型も人間性も実に福々しさに溢れているが、その内面はホット&シャープ。大胆で思い切りのいい予想をするロングヒッターであり、こと馬券好きという点においては社内で1、2を争う人材でもある。内勤になった私と入れ替わる形で現場取材班になったため、それまで私が担当していた十数件の厩舎をそっくりそのまま受け継いで現在に至っている。当初は個性が強く癖のある数人の調教師を捌けるだろうかと密かに案じたものだが、半年もたたないうちにそんな彼らを楽々手の内に入れていた。「甲斐君がホントよくやってくれるから、もうアンタなんか現場に復帰しなくていいよ」と何人の調教師に言われたことか(汗)。体型そのままの懐の深さが彼の武器で、非常事態になるとこうして声をかける気配りもできるいい奴なのだ。
他にも青木、牟田、小原、西村といった通常は現場に出向いているスタッフが異口同音に「週刊誌関連の業務があれば指示してください。手伝いますから」と嬉しい言葉を届けてくれる。午前中に出社して特別レースの検討記事の幾つかを処理しようと覚悟していた私の緊張感は彼らの優しさに触れたことで一気に緩んでしまった。元来が緊張感皆無というか締まらないというのか、隙あらばすぐダレるのが特技の私。この日は午前11時出社をめざしていたというのに、気がついたら午後1時前になってようやく家を出ていた。
出社すると現場の人間の大半が机に坐っていてまるで木曜午後の雰囲気。いざ東京競馬場のレースが始まるとグリーンチャンネルの前に20人近くが集結。テレビの前にポツポツとしか人間のいない通常の開催日とは異なって、一種独特の盛り上がりを見せる。いつもだと各競馬場から送られてくる次走へのメモやインタビュー原稿を各人で分担して校正しつつ、その合い間にレースを観戦するのだが、この日は関西圏の競馬がないことに加えて各スタッフが出勤して雑用まで手伝ってくれるのだから時間の余裕もタップリ。各馬のパドックの様子から本馬場入場までをじっくり観察した上で、更にオッズまでをも十分に吟味して馬券が買えるという夢のような環境。これで馬券を外すわけにはいかないと張り切ってPATで馬券を購入しまくる私だった。
午後6時過ぎに週刊競馬ブック2月5日発行号が校了。区切りがついた途端にドッと疲れた。原稿処理等は予想以上にスムーズに運んだのだが、肝心の馬券成績はサッパリ。PATの残金は跡形もなく消えていた。そして、画像印刷局から無人となった編集部に帰ってくると私の机の上に誰かが置き去った根岸Sの外れ馬券が一枚。手にとってみるとワイルドワンダーとマイネルスケルツィを1、2着に固定した3連単である。3着候補には(6)(8)(14)(16)とあり、2着から5着馬のがすべて網羅してあるのだから惜しいというか勝負弱いというのか……。こんな馬券を置いていくのはおそらく甲斐しかいないと勝手に決めつけ、あれでもう少し馬券が達者なら文句のつけようがないんだがなあなどと思いながらもう一度馬券を見直して気付いた。金額の差こそあれ、彼の勝った3連単の組み合わせは私とまったく同一ではないか……。そこで前言撤回!甲斐よ、君のセンスの良さは群を抜く。目先の敗戦にめげず私と一緒に貧乏に耐えよう。近い将来、我々の時代が訪れるのは間違いないから。
競馬ブック編集局員 村上和巳
◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP