・アグネスアーク ・エイシンデピュティ ・カンファーベスト ・コンゴウリキシオー ・ダイワメジャー ・トップガンジョー ・ブライトトゥモロー
・インティライミ ・スイープトウショウ ・デルタブルース ・トウカイカムカム ・トウショウナイト ・ポップロック
古田敦也兼任監督が引退会見で涙を流した。ヤクルト一筋のプロ生活を送り主砲としても頭脳派捕手としても活躍。黄金時代を築き上げた。プロ野球の再編問題が起きた2004年には史上初のストライキを断行するなど労組・プロ野球選手会の会長としても強烈なリーダーシップを発揮したのは記憶に新しい。スポーツ好きを自称する私だが、一挙手一投足に知性を感じさせるクレバーな選手が好みで、古田選手はお気に入りのプレイヤーのひとりだった。監督としては結果を出せなかったが、まだこれからも手腕を発揮する機会があるはずだし、4度の日本一に貢献した選手としての実績は胸を張れるもの。18年間ごくろうさまでした。
スケールもレベルも比較にならないほどマイナーではあるが、こと現役引退という意味においては私も似たような経験をした。現場記者を引退したときがそれ。馬が好きでトレセンが好きで、もう生涯現場記者で終わろうと思っていたのに、突然上司から「現場を引退して内勤のデスクに転身せよ」との業務指令があった。馬と接し関係者に取材しつつ現場で戯れるのが生き甲斐だった私はその言葉に茫然自失。もう馬の顔を撫でながら取材をすることもなければ頭を悩ませつつ予想を打つあの独特の愉しみもなくなるかと思うと辞表を出して転職しようかとも考えた。しかし、結局は辞表も書かずに指令を受け止めた。馬と離れた人生など考えられなかったから。
内勤になって5年以上が経過。どうにかなるさと例によって気楽な気持ちで転身したものの、実態は想像以上にキツかった。それまでは課された業務を処理するだけでよかったが、デスクになってみるとまずは組織全体の都合や利益を考えなくてはいけない。社外の人間との交渉や後輩の指導という私には不似合いな職務も多い。今年からクローザーに転向した巨人の上原浩治投手が「自分だけのペースでやれる先発から抑えに代わった途端に重圧でいっぺんに白髪が増えた」と話していたのを新聞で読んだ。私も内勤になって一気に白髪が増えた。“やっぱり苦労が出るもんだな”などと思ったりしたが、友人たちに「いままでが好き放題の勝手気ままな人生。白髪が増えてやっと年齢相応な雰囲気になっただけ」と切り捨てられたが、考えてみるとその通りなのである。 最近はライターさんや取材班の原稿チェックに追われながら稀に自分で原稿を書いたりもするが、言葉に対する正統な知識に乏しいために辞書と首っ引きの毎日。感性だけで通用するほど甘い環境ではないだけに編集者としてはまだまだレベルアップが必要となってくるが、この歳になると短期間に能力を高める術があるわけもなければ気力も残っていない。いわば八方ふさがりの絶望的な状況だが、それでも最低限の知識欲だけは持ち続けようと思いつつ日々を過ごしている。そんな私に対していろいろ相談してくる物好きな人間も少なくはない。もっと相手を選べよと心の中で呟きながらも頼られればついつい応じてしまう世話好きな私である。
以前ほど数は多くないが、それでもポツリポツリとあるのが中堅ジョッキーたちからの相談。さすがに技術面の問題を持ちかけられることはないが、人間関係の悩みや将来についての不安に対して意見を求められるケースが多い。相手の人間性や置かれている環境を考えつつ臨機応変に答えているが、対応に頭を抱えるのが“現役引退”についての相談。ひと昔前なら「もう少し我慢を続ければ、そのうち風が吹くこともある」と慰留することが多かった。しかし、短期免許で来日する外国人騎手が増加し、地方のトップジョッキーが次々に中央入りするこの時代を考えると、研鑽の日々を送ったとしてもそれが報われる可能性は極めて低い。最近は「完全燃焼したか」「きちんと気持ちの区切りをつけられるのか」といった点に重きを置いて答えるようにしている。
あくまで他人事として完全燃焼だの気持ちの区切りだのという言葉を使っているが、考えてみれば編集者として自分に残された時間もそう長くはない。ただ流されるままに時を過ごすのではなく納得づくで人生の区切りをつけるべきなのだろうが、他人にはあれこれアドバイスできてもそれをいざ自分自身に置き換えられないのが歯がゆい。言い訳の材料にはしたくないが、昨年あたりからは自分の年齢を実感することが多くなっている。
競馬ブック編集局員 村上和巳