・アドマイヤフジ ・エリモハリアー ・サクラメガワンダー ・シルクネクサス ・ナムラマース ・マチカネキララ
先日、Aさんというファンの方から「ゲートのうまい馬と下手な馬の違いはどのあたりなのでしょう」という問い合わせがあった。素朴にして意外に奥が深いともいえるこの質問。頭では判っているつもりでも、いざ説明するとなるときちんと言葉が組み立てられないケースが少なくない。ラジオの競馬中継で解説をしていた頃に今回と同様の質問をされたことがあったので、当時の会話を思い出しつつこの質問に答えることにした。
「ところで村上さん、昨日、今日とB騎手は出遅れてばかり。これまではそうゲートが悪い騎手という印象がなかったんですが、今週はどうしちゃったんでしょうかね」(Cアナウンサー)
「たしかに土日とも出遅れるケースが目立っていますが、出遅れというのは基本的には馬のせい。騎手というのはあくまで馬がレースをしやすくするように扶助するだけですからね」(村上)
「そうすると、出遅れる馬というのはどのあたりに原因があるのでしょうか」(Cアナウンサー)
最低限の打ち合わせだけで済ませて台本は一切なしとしたこの番組。筋書きがないからこそレースが面白いように、司会者も解説者も台本にしばられずフリートークで中継を盛り上げようとする狙いだったが、時として難問に直面。「鋭意調査しますので時間をください」「関係者に取材して来週に報告します」といった返答でその場を逃れることもあった。この“出遅れる馬”については下記のような説明をした記憶がある。
「原因としては、まずゲート内での駐立不良ですね。立ち上がる、もぐる、前掻きする、前後左右にモタれるといった動作が出遅れにつながります。その背景にはイレ込み、閉所恐怖症、競走恐怖症といった競走馬の心理があると思われます。普段はゲートが速いのに、一旦出ようと扉に突っかけて態勢を立て直している間にゲートが開いて出遅れるケースもありますね。それ以外ではトモや腰が甘くて一完歩目の踏ん張りがきかない馬もよく出遅れます。多種多様ですが、そういった馬をなだめてゲートに集中させるのが騎手の役目。対応次第では出遅れる不利を最小限に食い止められるわけですから、対応の巧拙は騎手同士でも個人差があるでしょうね」
無難な説明でお茶を濁したところ、翌週になってD騎手に突っ込まれた。騎乗馬が少なく昼過ぎには競馬場を出て栗東へ帰るべく移動していた彼がタクシーのなかでラジオの私の解説を聞いていたのである。
「まずまず合格ぐらいの解説でした(笑)。出遅れの原因についてある程度網羅してましたしね。ただ、閉所恐怖症という言葉がありましたけど、基本的に草食動物である馬はみんな閉所恐怖症で、その症状に差があるだけですからね。他に付け加えるとすれば、隣の馬が暴れてアオリを食うケース。これが結構多いんです。あと、ダートのかかりが悪いときも出遅れます。一完歩目のかかりが悪く脚が空回りしてバランスを崩すパターンですが、これは落馬につながる可能性大。いずれにしても、出遅れは身の危険が伴いますし、騎手にとってはマイナスイメージでしかありません。ですから我々騎手はゲートの悪い馬には乗りたくないですね」
いつもこの原稿を読んでくれているというAさんは競馬をはじめてまだ1年未満とのこと。昔話を引用しつつの説明になったが、“ゲートの下手な馬”については上記の昔話で理解していただけただろうか。また、ゲートのうまい馬については、現場記者数名に話を聞いたところ全員がサウスティーダ(牝4歳、栗東・小崎厩舎)を“現役最高のゲート巧者”に指名した。聞くところによるとこの馬はゲート内ではいつも落ち着きがあって前向き。2走前の500万条件を逃げ切ったときには自分の鼻面をゲートの扉につけてこじ開けるように好発進したとか。「今度やったらフライングでカンパイ(スタートのやり直し)だぞ」とスターターに言わせたという噂もあるほど。次にこの馬が出走する際にはスタートに注目してみたい。
メールの最後に「“競馬用語の基礎知識”みたいなものがあれば助かるんですが」と書かれていましたが、小社ホームページの情報コンテンツにも“競馬用語辞典”があります。基本的な競馬用語の大半を取り上げていますので機会があれば一度ご覧ください。台風4号もなんとか通り過ぎて間もなく梅雨明け。競馬の基礎知識を深めつつ馬券を当てまくって夏の暑さを吹き飛ばしましょう。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP