・アサクサキングス ・アドマイヤムーン ・ウオッカ ・カワカミプリンセス ・スイープトウショウ ・スウィフトカレント ・ダイワメジャー ・ポップロック ・メイショウサムソン ・ローエングリン
週刊競馬ブックでは昨年12月にウオッカで阪神ジュベナイルフィリーズを勝った四位洋文騎手にインタビューを申し込んだ。無限の可能性を持ったウオッカとその乗り手にスポットを当てた特集だったが、本人に快諾を得ながらも取材日程が折り合わずその企画は流れた。そんな経緯があったため、桜花賞後にも同様の予定を組んでいた。しかし、ウオッカが桜花賞でダイワスカーレットに敗れたことにより、再度その特集は流れてしまった。馬が主役の競馬の世界では人間が描くストーリーそのままにはなかなかことが運ばないもので、だからこそ面白いとも言えるのだが、企画する側の人間としては胃が痛くなるような結果になることも少なくない。
オークス勝ちした福永祐一騎手と電話で話した際に「四位との約束がなかなか実現できずにいる。春のビッグレースはあとダービーと安田記念だけ。どちらでもいいからとにかく勝ってくれ。そうすれば無条件で特集を組む。とくに牝馬でダービーを勝てば話題性も含めて文句なし」と伝言を頼んだ。なのにそのダービーではウオッカを外していた私。しかし、ウイニングランをするウオッカ&四位騎手の姿を見ていると馬券の当たり外れなんてどうでもいい気分になった。それほど爽快で素晴らしい人馬のパフォーマンスだったのはご存知の通り。
ダービーの翌日、四位騎手に電話を入れた。「痺れる騎乗だったな、おめでとう。ウオッカを外して馬券はやられちまったけど、君の嬉しそうな顔見てたら悔しさなんて吹っ飛んじまった。ところで例の企画、早速にでも話を進めるつもり。君らしい言葉で取材に応じてやってくれよ」と声をかけたところ「相変わらず馬券下手なんだね、村上さん(笑)。でも、半年越しの企画がこれでやっと実現する。もちろん全面的に協力するから、いつでも言ってください」といつになく弾んだ声が返ってきた。
そして今週の水曜日(13日)。函館に滞在する四位騎手に電話を入れた。「原稿に目を通した。自分の言葉で気持ちを表現できる君らしく、味わい深いコメントが多かった。あれなら読者にも読み応えがあるだろう」と伝えたところ、「ありがとうございます。ただ、あれこれ悩んだ時期があったというくだり。あれって余計じゃなかったかな。素直に本音を吐いたつもりだけど、言わないほうがよかったかなって気もして」と彼。「順風満帆の人生なんてそうはない。君が騎手として思い悩んでたってのは成績を考えればある程度は想像がつくこと。あの部分はむしろ人間臭さが出ててよかったんじゃないか。気にすることはないさ」そう答えつつも少々考えた。
騎乗技術に秀でているのはもちろん、馬に対するあたりの柔らかさでは群を抜く四位。騎手としての資質では武豊にも劣らないと評価され、デビューから10年目の2000年には年間100勝を突破。“四位時代の到来”を思わせた。しかし、その後は伸び悩み、昨年は年間64勝にとどまった。どんなに完璧に乗ったとしても騎乗内容よりも結果としての勝ち負けで評価されがちな騎手の世界。成績上では低迷する彼に“形ばかりにこだわる”“馬に対して優しすぎる”“勝負に淡白”といった本質から外れた批判も少なくなかった。騎乗技術で彼を凌ぐとはとても思えない人間が次々と勝ち星を積み重ねて上位に進出する。そんな現実に直面すればアスリートとしてモチベーションを見失うのは、ある意味では当然ともいえる。そんな繊細さが騎手四位洋文の魅力でもあるのだから。
「ダービーを勝ったからもう騎手を辞めていいなんて本気で言い出すなよ。減量に失敗して51キロに乗れなくなり、宝塚記念のウオッカは別な騎手が乗るってのもなしにしてくれよな」
「なに馬鹿なこと言ってるんですか。来年もダービーに勝ってあの感激をもう一度味わうつもり。宝塚だって絶対に乗りますよ。ウオッカの素晴らしさをファンにもっと見せてあげたいから」
電話の最後に告げた冗談混じりのメッセージを痛快に笑い飛ばした彼。そして、その言葉からはウオッカのポテンシャルの高さに惚れ込んでいる様子がストレートに伝わってきた。ダービーの勝利でひとつの区切りをつけ、新たな騎手生活をスタートさせる彼の今後の騎乗ぶりには大いに注目したい。なお、この四位洋文騎手インタビューは週刊競馬ブック6月18日発売号に掲載されており、目を通すとダービーを制覇した喜びの大きさ、深さがしみじみと伝わってくる。ファンの方にはぜひ一読を。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP