・アサクサキングス ・イクスキューズ ・オースミダイドウ ・ゴールドアグリ ・シャドウストライプ ・ダイレクトキャッチ ・トーホウレーサー ・マイネルシーガル ・マイネルフォーグ ・マイネルレーニア ・ローレルゲレイロ
「手応えは非常によかった。(エキシビションなので)みんながビシッと追うとは思っていなかったから、前半は他の騎手の様子をうかがいながらゆったりとレースを進めた。うまく折り合えて、直線では坂を上る手前から仕掛けたけど、最後は本気の競馬になったね。今日の自分の騎乗には100点満点をあげたい。レース感覚は失っていなかった。ただ、足腰が……(苦笑)。やっぱり攻め馬と実戦とは違うね。今日はファンの皆さんに盛り上がってもらえて本当に嬉しい。今回はたまたま勝ったけど、次も(俺が)勝つよ(笑)」
現役時代と寸分違わぬ騎乗フォームでゴール板を先頭で駆け抜けた河内洋。その瞬間に湧き起こった歓声はまるでG1レースのゴールを思わせた。スタンドの声援に応えて照れくさそうに軽く片手を挙げる勝利ジョッキーの懐かしいその独特の仕草も昔と何ひとつ変わっていなかった。勝者も敗者も、そして最終レース終了後も居残って観戦した5万人近いファンも含め、みんなが心から競馬を楽しんでいた。
4月22日の最終レース終了後に東京競馬場で行われた第1回ジョッキーマスターズ。新スタンド完成記念として行われたこのエキシビション競走には9人の元騎手が参加した。レース前は「お互いに無理はよそう。ゆっくり行って直線だけ格好をつければ、それでイベントとしては成立するから」と体力に自信のない9人の意見が一致したと聞くが、いざゲートが開くとそんな打ち合わせはどこへやら。各人が本気で馬を操って勝負に出た。いくつになっても勝ち負けにこだわるのは彼らが騎手だったからこそであり、そんな姿が見守る我々を熱中させる。
パドックで整列した後、小走りで騎乗馬に駆け寄り、“頼むぞ”と声をかけるかのように騎乗馬の首筋を軽く叩くいつもの岡部幸雄の姿を見ると忘れかけていた様々な場面が脳裏に浮かんでくる。「いやあ、疲れて死にそうだよ(苦笑)。……でも、1回限りじゃなくて、(これからも)何回か乗りてえな」というレース後の台詞もいかにもこの人らしい。背中を丸めた彼独特のフォームも健在だった。
イソノルーブルを彷彿させる逃げを打った松永幹夫。昨年、トレセンで会ったときには「ちょっとおなかが出てきちゃって」と苦笑していたが、その勝負服姿には違和感がなく、実に堂々としたレースぶり。本人も「直線で僕の馬を交わして行く河内さんの姿を見ていたら、現役時代そのままの綺麗なフォーム。昔と変わらない格好よさでした。まだ現役でやれるんじゃないかって見とれてしまったくらい。それに、想像以上にたくさんのファンの方が残ってくれたのは嬉しかった。僕自身も十分に楽しめましたから」と満足げな様子だった。
このJマスターズの陰のMVPはやはり本田優。「勝てなくて残念(笑)。今日は周囲の空気を読んで抑えた。これから僕より若い騎手が引退してこのようなレースをやるときには、空気を読まないで全力でやりますよ(笑)。10年ぐらい経ってまた乗りたいね」と話していたが、常に全力投球が売りの勝ち気な彼とは思えないセーブ気味の追い方がその言葉を裏付けていた。引退して間もない自分が勝ったのではイベントが盛り上がらないと判断してのことだったろう。次の機会には存分に暴れて欲しい。
G1でもなければ馬券すら売っていなかったJマスターズ。にもかかわらずレース後の反響は想像以上に大きかった。日曜夜にパソコンを覗いたところ、競馬サイト、ブログなどではメインレース以上の大きな扱いでこのレースが紹介されており、1日に千件以上もの書き込みが集中した掲示板もあったという。先日、JRA関係者と話す機会があり「もうNHKマイルCはG2(Jpn2)に格下げするか、ダートの3歳王座決定戦に変えるべき」と私見を伝えたところ「G1の冠をつけないとお客さんが集まらず、馬券も売れない」との返答だった。しかし、Jマスターズに対する反響の大きさを考えれば、JRAのこの認識には大きな誤りがありそうだ。
目先の売り上げばかりに振り回されるのではなく、ファンが求めているものは何か、そして真のファンサービスとは何かという原点に戻って競馬開催について考えるべき時期にきているのではないか。今回のJマスターズの出場者選出についても同様のことがいえる。騎乗した9人に対しての不満はないが、対象を調教助手やトレセンを離れて一般社会で生きている人間まで広げてもいいではないか。主催者が独断で決めるのではなく、やはりファン投票で出場者を選出するべきだろう。盛況で幕を閉じたこのJマスターズを長く競馬ファンに愛されるイベントとして定着させるためにも。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP