・ワイルドワンダー ・トーセンブライト ・クーリンガー ・メイショウトウコン ・クワイエットデイ ・マンオブパーサー
・ベッラレイア ・ホクレレ ・ザリーン ・ランペイア ・ダノンフローラ ・マイネルーチェ ・パッションレッド
55年も生きていると現実離れしたことはあまり考えなくなる。というか、どうしても日常に追われるために自分の周囲にある現実問題の処理を最優先させざるを得ない。夢いっぱいだった若者の頃と比べると発想の出発点からして違ってくるのは、ある意味で当然のことでもある。とはいえ、頭の固い年寄りにはなりたくないと思って生きてきたが、いざ歳を重ねてみると若い頃の柔軟さや奔放さのかけらも残っていない自分に気づいて落ち込みがちな昨今。そんなときに気分転換をさせてくれるのが競馬である。能力表を見ながらレースを予想するだけで日常を離れて自分だけの世界で思いを巡らすことができる。硬直化した脳に刺戟を与えるという意味においても没頭できるものがあるのはいいことだが、週半ばに飛び込んできたスト騒動には振り回された。
4月14、15日の中山、阪神、福島で競馬が開催されなかった場合に16日発売の週刊競馬ブックはどんな内容にすべきか。今週の水、木は本来業務を処理しながら並行してそんなシミュレーションを繰り返してきた。春闘の労使の団交が近年になく難航。厩務員組合がストに突入して開催中止となる可能性大との情報が数ヶ所から伝わってきたのである。3場すべての開催が取りやめになると土日で全72レースが中止となる。必然的に巻頭で前週のレース写真を掲載するカラーページがすべて空いてしまうだけでなく、72レース分の結果を載せるモノクロページも丸々空いてしまう。もう想像を絶する状況である。
熟慮を重ねた結果、それなりの対策を考えた。14、15日の競馬が中止になるということは皐月賞が1週順延になるということでもある。となると翌週発売号のメインは当然皐月賞である。ならば、G1増刊号用にカメラマンが撮影した皐月賞出走馬の最終追い切りの写真を巻頭カラーページに使える。ただ単にその写真を掲載するだけでは意味がないので調教班に本格的な調教解説を加えてもらい、同時に取材班には日程が1週延びる点についての関係者のコメントを取ってもらう。こうすれば読者の方もある程度は納得してくれるはず。そのパターンでカラーページの対応策についてはひと区切りつけられた。こうなると残るはモノクロ70ページほどの扱いである。
編集部、画像製版部、開発部(コンピューター部門)といった部署のスタッフと話し合った結果、現場記者の座談会、過去10年の皐月賞のレース写真紹介&結果の完全分析、年頭からのジョッキー完全データ、栗東・美浦入厩済み2歳馬紹介といった様々な特別企画案が浮上。それぞれについてどの程度の記事が掲載できるかについて詰めた。読者の方に600円という貴重な金額を使っていただく以上、埋め草記事オンリーで週報を発売するのは許されないと考えてのことだったが、他にも噂を聞きつけたレギュラーのライター数人が「フリー原稿で2、3ページぐらいならいつでも書かせてもらいます。連絡してください」と申し出てくれたこともあり、木曜の夕方になってページを埋める一応のメドが立った。そして数時間後に“交渉妥結、スト回避!”の電話が。すべての努力は徒労に帰したが、思わず安堵した瞬間でもあった
ストライキは労働者の正当な権利であり、それを行使しようとする厩務員組合を一方的に批判する気はない。今回の争点について、そして労使双方の対応について正確には把握していない第三者でもあるのだから。しかし、地方競馬が次々と崩壊を続けるこの時代、JRAの売り上げが年々減少してファンの競馬離れが目立つ時代に開催ストライキをすることの是非について改めて考えて欲しい。しかも、その日程はサラブレッドにとっては一生に一度しかないクラシックレースに重なる。この日のために厳しいトレーニングに耐えてきた馬たちやレースを待ち侘びるたくさんのファンを無視する行動は、競馬に携わる人間が選択すべきものではない。馬がいてこその競馬であり、馬券を買うファンがいるからこそ競馬が成り立っているのだから。競馬サークルが世間とは隔絶された特殊社会のまま存在する限り、競馬人気の復興などはとても期待できない。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP