・オレハマッテルゼ ・ゴールデンキャスト ・シーイズトウショウ ・シンボリエスケープ ・ステキシンスケクン ・タマモホットプレイ ・チアフルスマイル ・テイクオーバーターゲット ・ビーナスライン ・ブルーショットガン ・リミットレスビッド
9月20日、水曜日。普段通りに出社して通常業務をこなし、午後4時に早めに退社。JR手原駅から電車に乗って草津で乗り換え、一路大阪へ向かう。通勤時間外とあって電車は比較的すいており、ノンビリ座席に体を沈められた。数分が経過するとすぐに睡魔に襲われる。普段は休日の月火が競馬開催日(18日)と定例会議(19日)だったため、無休で水曜日を迎えたことを思い出す。多忙といえば多忙なのだが、好んでこの仕事に就き、お気楽に日々を過ごしているのだから文句を言っても仕方ない。せめて今日は早く用件を済ませて帰ろう。そう心に決める。 京都駅から乗った髪の長い学生風の男の子が二人掛けシートの横に座る。私の体に接触しながら無造作に座り込むその態度に“最近は無神経な若者が多いな”と眉をしかめつつ、やむなく体を気持ちだけ窓際に寄せて外の景色を眺める。しばらくするとその若者がバッグから雑誌を取り出してゆっくりとページをめくりはじめる。とくに覗くつもりもなかったが、見慣れたレイアウトが視界に飛び込んできてすぐに気づく。彼は週刊競馬ブックを読んでいるのだ。各ページを食い入るようにして読んでいる姿は相当な競馬ファンのようである。それだけで“よく見るとなかなか知的な若者じゃないか”と印象を変える私。人間の感覚なんてのは本当にいい加減なものである。 5時すぎに梅田へ到着。紀伊国屋へ直行するのはいつも通り。置いてある本の種類は多いのだが、それ以上に人の多さにはいつも閉口する。本探しを30分ほどで終了して目的地へ向かって歩き出す。阪急電車のターミナルの横を通り抜けて北に向けて進むと右手に小さなビルが見えてくる。このビルの地下にあったライヴハウスには何度も通った懐かしい思い出があるのだが、いまは別なテナントが入っているようで周囲の雰囲気も少々変わっている。更に数100メートル歩くと今度は左手にかっぱ横丁が見えてくる。大阪の“キタ”にしては比較的値段の安い店が多く、梅田の場外馬券売り場から近いという地理的条件もあって、その昔は仲間とよく飲み歩いた場所である。 約束時間の7分前に目的地である緑を基調にした背の高いビルに到着。受付嬢に面会相手の名を告げると「本日はお約束でしょうか」と型通りの確認をしてくる。普段は携帯電話で約束を取り付けてぶっつけで相手と会うというお気楽な会合がほとんど。こういった正式な手順を踏んで人と会うのは実に久しぶりのことで気が引き締まる。たまにはこの手の緊張感を味わうのも悪くないなどと考えているうちに相手が登場。簡単に挨拶を済ませてビルを出る。軽く食事をしながらいろいろ話し合おうというプランなのだ。心中で“喋りすぎず飲みすぎず、時間も1時間半で切り上げる”と呪文のように唱えながら予約している店に向かう。 「年々JRAの売り上げが落ち込み、競馬場の入場人員も確実に減少しています。長い不況を抜け出して徐々に景気が回復傾向にあるというのに、競馬人気そのものは回復してきません。ハーツクライがドバイシーマクラシックを制覇して“キングジョージ”でも健闘。ディープインパクトも世界一をめざして凱旋門賞に挑戦します。これだけ主役のサラブレッドが頑張っているにもかかわらず、競馬そのものが盛り上がらない。自戒も込めて言いますが、その背景には単調な報道しかできない競馬マスコミの責任があると思われます。それと同時に、競馬の真の魅力をファンに伝えられるライターが少ないこと。これも憂うることです。あなたにはファン代表としての視点で、型に嵌らない斬新な原稿を書いていただきたい。そう考えて栗東からやってきたのです」 生ビール、焼酎を飲みながらいつもの持論を展開。私よりひと回りほど年下の相手は週報への執筆依頼を快諾してくれた。それからは競馬談義や昔話で大いに盛り上がり、打ち合わせは大幅に時間延長。“喋りすぎず飲みすぎず、時間も1時間半で切り上げる”の呪文は遥か彼方に消え去り、飲んで喋って4時間。家に帰りついた頃は日付けが変わっていてもうクタクタのヘロヘロ。学習能力皆無で幾つになっても懲りない自分にはただただ呆れるしかなかった。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP