・ヴィータローザ ・コンゴウリキシオー ・サザンツイスター ・サンレイジャスパー ・スウィフトカレント ・ツルマルヨカニセ ・メイショウカイドウ
私 「日本の村上です、どうも……」 相手 「はあ?どなたですか」
私 「失礼しました、競馬ブックの村上です」 相手 「ああ、はい、はい。村上さんですか」
電話の冒頭から大きく外してしまった。なにせ日本の田舎に延々と住み続けること半世紀強。いままでに国際電話で話した経験は数えるほど。それも大半は相手からかかってきたものばかりで、自分から電話したのは一度か二度あっただけ。それも、数年ぶりのこととあってついつい緊張してしまったにせよ、相手の携帯電話にかけておいて「日本の村上です」もないもんだ。電話を切ってからは深く深く反省したが、もうあとの祭りである。突然電話を受けた相手もさぞかし呆れたことだろう(汗)。
7月22日の夕方6時にハーツクライを管理する橋口調教師と話した。週刊競馬ブックにニュースぷらざという頁があって、そこにキングジョージ6世&クイーンエリザベスSに挑戦するハーツクライの近況を掲載するべく現地に電話を入れたのである。ニューマーケットにいるハーツ陣営の動向についてはJRAのホームページでも連日細かく紹介されているが、それはそれ。直接取材でこそ伝わってくるものもあるのだから。以下は私と同師の一問一答である。
村上 「輸送はトラブルもなく順調だったようですね」 橋口 「そうなんですが、もともと輸送減りする傾向にある馬なんですよ。長時間の輸送だったためか今回もやはり体が減ってしまいました」
村上 「JRAのホームページでは、計量で500キロを超えていたと書いてありましたが」 橋口 「ああ、あのホームページは私も見ていますよ。4キロぐらいの鞍をつけて500キロありましたから、498キロだった有馬記念当時とそう変わりません。その意味では安心しましたが、輸送で10キロは減ったと思います。それに、トモの肉が少し落ちているのが気になるんですよ」
村上 「ということは環境の変化に戸惑っているということですか」 橋口 「着いた当初はそんな感じでした。でも、日々落ち着きを増して、いい感じになっています。だからあと1週間でいい状態に持っていけるんじゃないかとは考えていますけどね」
村上 「かなり暑そうですが、ニューマーケット入りして困ったことはありますか」 橋口 「気温は高いですが、湿気はそう高くありません。いってみれば夏の北海道みたいな気候。ですから暑さは応えません。ただ、厩舎に洗い場がないのが困りますね」
村上 「えっ、雨がないということですか?」(言葉を聞き違えてまた外している) 橋口 「いえ、雨じゃなくて洗い場。ちゃんと馬を洗う場所がないということです。だから、馬にシャワーを使うのはコンクリートの上。私も含めたスタッフ全員が力を合わせて馬を洗っているんです」
村上 「それは大変ですね。ところで慣れない場所での調教に苦労はありませんか」 橋口 「ロングヒルでキャンターを乗っていますが、いい感じですよ。人間が跨ると落ち着きますし、先導してくれる馬もいますからね。ここまではなにも問題はありません。日曜日に馬なりで流して、来週水曜日にラスト1ハロンを強めに追えば予定通りに仕上げられるでしょう」
村上 「現地の新聞の一面でも大々的に取り上げられているようですが、そちらの取材ぶりはいかがですか。マスコミに注目されればされるほど力を出す大舞台に強い橋口さんですし、徐々に気持ちも高揚してきているんじゃないかと勝手に想像しているのですが」 橋口 「日本みたいに数え切れないほどのマスコミの取材攻勢があって、同じ言葉を延々と繰り返さなくてはいけないということはありませんから、むしろ楽ですね(笑)。でも、いよいよ本番が近づいているなという気持ちになって、いい意味で緊張感が出ています」
村上 「それでは最後に、日本の競馬ファンに橋口調教師らしいメッセージをお願いします」 橋口 「日本の皆さんが大きな期待を寄せてくれているのは痛いほど判ります。私だって皆さんに負けないぐらい力が入っていますし、期待しています。なんとかベストの状態に仕上げて皆さんの期待に応えるつもり。思い通りにさえ仕上げられれば自ずと結果は出るでしょう」
“思い通りにさえ仕上げられれば自ずと結果は出るでしょう”―大胆不敵とも思える締めくくりの言葉はいかにも九州男児の橋口さんらしい歯切れの良さだった。こうなったら29日の夜はグリーンチャンネルの映像に熱狂するしかない。頑張れハーツクライ!頑張れ世界のハシグチ!
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP