・アサクサデンエン ・インセンティブガイ ・オレハマッテルゼ ・カンパニー ・グレイトジャーニー ・ダイワメジャー ・ダンスインザムード ・テレグノシス ・ハットトリック ・バランスオブゲーム
5月24日、水曜日。珍しく早起きしてトレセンに。5時40分には坂路下の駐車場に到着。そこから少し勾配のある坂道を歩くともう息が切れてくる。同時にジーンズから下腹部がはみ出ているのも気になる。明らかに運動不足である。坂路横の逍遥馬道では松田国英厩舎の馬たちが5、6頭縦一列に並んでウォーミングアップをしている。ダービー週ということもあってか、いつになく取材陣の数も多い。
馬上から「おお久しぶり」「珍しいね」と声をかけてくるのは同厩舎所属の調教助手の渡辺勉クンと伊藤稔さん。普段なら「おはよう」が一般的な挨拶なのだが、なにせ1カ月半か2カ月にいっぺんぐらいしかトレセンに顔を出さない私。いざ顔を出したとしても、いつも限られた場所で限られた少数の人間としか会話をする機会がない。そのために最近の挨拶は「久しぶり」か「珍しいね」ばかり。姿を現すのが不定期で、やってきたからといって取材をしているふうもない。そんな私だから「怪しげなオッサン」などと呼ばれるのも仕方のないことかもしれない。
馴染みの人間たちと軽く会話を交わしたあとは坂路の調教スタンド4階の記者席へ。調教開始から1時間ほどはここで馬を見るのだが、まだ時間が早いのにかなりの記者連中がスタンバイしている。弊社調教班の青木行雄、取材班の海士部彰、橋本篤史を筆頭に馬社の津田照之クン、ニュース社の井尻雅大クンといった面々が仕事の準備に取りかかっている。そんな彼ら相手に軽薄なジョークを連発して白い目で見られているうちにほどなく調教開始。
調教開始から1時間後の午前7時に坂路から厩舎へ移動。コーヒーが飲みたくなってまずは山内厩舎の大仲部屋へ。「おはよう」と声をかけただけで芦谷弘二クンが冷蔵庫から缶コーヒーを手渡してくれる。習慣とは恐ろしい。横で馬房の掃除をしている市川和典クンが「今日はどうしたの?」と聞いてくるので「瀬戸口さんとこのマルカシェンクとメイショウサムソンの様子を見にきた。ここの馬じゃなくごめん」と事情説明。そうこうしているうちに西谷誠騎手が跨ったマルカシェンクと石橋守騎手が跨ったメイショウサムソンが厩舎の周りで運動をはじめる。スカッとした体つきのマルカと古馬のような風格が感じられるメイショウ。う〜ん、どちらも捨て難い。「追い切りの動きを自分の目で確かめんといかん」と独り言をつぶやきつつしばらくは運動をチェック。
ハロー明けの7時30分にコース用の調教スタンド3階で武豊騎手の記者会見がはじまった。しかし、同じ時間帯に福永騎手を背にしたマルカシェンクがCWコース入り。有力馬の記者会見と追い切りとが同時進行になってしまったのだ。目は双眼鏡で馬を追いながら耳は背後のインタビューに集中するというややこしさ。ただでさえ集中力のない私なのだから、こんな状況下ではすっかりパニクってしまう。もっと時間帯を考えて記者会見をして欲しい気もするが、なんてたって天下のダービーが4日後。大一番に向けて馬も人も大忙しなのだ。
有力馬の追い切りがひと通り終了したこともあって調教スタンドから時計台下のベンチまで移動して一服。ここは馬場へ向かう馬や馬場から帰ってくる馬をノンビリ観察できる私のお気に入りの場所のひとつ。行き交う馬の乗り手と冗談混じりの会話も存分に楽しめる。そこにMBS(毎日放送)の小山浩子さんとOBC(ラジオ大阪)の熊谷奈美さんが突然現れた。ベンチで3人横並びになって、やれ「久しぶり」だの「元気だった?」だのとワイワイ。それからは馬の存在をほとんど忘れて会話に熱中した。しばらくして、我々の前を通りかかったA調教助手が馬上から声をかけてきたのだが、この言葉がなんというかまあキツかった。
「誰や!トレセンへきてろくに馬も見んとお姉ちゃんばかり見てヘラヘラしてるオッサンは。そんなとこで鼻の下ばかり長くしとったら、ダービーの馬券なんて当たらへんぞ」
他にも競馬ウォッチャーの橋浜保子さんやNHKの岩田久美さんあたりが上記の2人と同様に笑顔を浮かべて挨拶してくれた。それぞれ魅力的な彼女たちだが、その心理は単に年寄りに対する形式上の礼儀を守ろうとしているだけなのは見た目にも明らか。だというのに嬉しがって鼻の下を長くなが〜くしているのだからなんともまあ締まらない。明日のダービーはマルカシェンクの単勝&馬単で勝負しようと決めたのだが、A調教助手の言葉を思い出すたびにその決心が揺らいでしまう情けない私である。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP