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4月19日、久しぶりのトレセンで石橋守騎手に出会った。普段は寡黙で感情の起伏の少ない人物だが、そんな彼が見せたこぼれ落ちそうな笑顔に皐月賞制覇の喜びの深さが感じられた。週刊競馬ブックでは皐月賞号で『石橋守騎手インタビュー』(芦谷有香)を掲載してこれまでの騎手人生や皐月賞にかける思いを紹介したが、レース終了後に「タイムリーな企画だった」と読者の方からたくさんの電話やメールをいただいた。そんな経緯もあって彼に祝福とお礼の言葉を伝えることにしたのだが、会話を終えて思ったのは相変わらず誠実で思慮深い人間だなということ。どちらかというと不器用で地味な苦労人の彼がデビューから22年目、42度目のG1挑戦(JRA)にして初めて掴んだ華やかな勝利。勝利インタビューを受けるその姿をテレビで見ているだけで我々までがほのぼのとした気分になった。 「G1勝ちおめでとう。4角手前でマモル君がチラッと後ろを振り返ったときに勝ったなって思った。いいレースだったね。週報のインタビューもタイムリーな企画と好評だった。ありがとう」 「こちらこそ、いろいろありがとうございます。皐月賞という大きなレースで、いい馬に乗せてもらえたのがいちばんですが、騎手になって良かったなとしみじみ思えた瞬間でした。幸せでした」 石橋守騎手への挨拶を終えてからはある騎手を探した。というよりは、その騎手と言葉を交わすのがトレセンへやってきたメインの目的だった。朝いちばんの午前6時から馬場が閉まる時間帯までほとんど休みなく攻め馬に跨りつづける彼。調教をつけた馬たちがレースに出走するときにはトップジョッキーに乗り替わっているケースが大半なのだが、腐ることなく日々精力的に攻め馬に跨りつづける。「彼が乗っている馬は変な癖がないから乗りやすいし、いつもキッチリ仕上げてくれる」と武豊や安藤勝己といった騎手たちがその頑張りに対して幾度感謝の言葉を口にしたことか。 そんな縁の下の力持ちとして日々を過ごしている若手の高田潤騎手が初めてクラシックの舞台に登場した今年の皐月賞。木曜日にJRAから出馬発表が届いた瞬間に『皐月賞騎乗おめでとう。2番枠だぞ。君らしい思い切りのいいプレーを期待している。頑張れ!』とメールした。直後の返事は『はい。頑張ります』という短いものだったが、その文面に彼の緊張が感じ取れた。そして皐月賞後には『惜しかったな。でもいい競馬だったぞ。格好よかったぞ。胸を張って帰ってこいよ』と再度メールを送信。『かなり悔しいけど、めちゃめちゃ興奮しました』との返事があったのは翌日の早朝。レースを終えてこの時間までどんなふうに過ごしたのか、そして敗戦を引きずってはいないか。あれこれ気になってトレセンへやってきたのだった。 「皐月賞でいい馬に乗せてもらって、悔いのないレースができました。普段は味わうことのない感動や興奮、いろんなものが経験できました。でも、僕は騎手なんです。騎手は勝つためにレースに乗ってるんです。18頭立ての18番人気の馬で2着にきたとしたら周囲の人は褒めてくれるでしょう。でも、負けは負け。いくら最高の競馬をしても勝てなければ満足はできないんです。あの日は悔しくて悔しくて……。飲めないお酒を飲んで朝まで起きていました。というか、とても眠れるような精神状態ではなかったんです。夜が明けてふと気づいたら60件もメールがきていて、それから60人すべてに返信しました」 競馬に携わる仕事を続けて30年近くになる。当初は馬に対する好き嫌いをストレートにぶつけていたが、キャリアを積みつつある程度は冷静に対応できるようになった。ただ、人間に対する感情は無理をしてまで抑えようとは思わない。だから、G1レースでは馬よりもついつい人を応援してしまう。皐月賞の前日に下記のメールを知人に送った。相手からは翌週になって「あなたのことをこれからは預言者と呼びましょう」との返事が届いたが、このメールの内容については二人の騎手に話してはいない。 「今年の皐月賞は高田潤と石橋守を応援します」 最後に恒例になりつつあるCMをひとつふたつ。週刊競馬ブック天皇賞号(4月24日発売)では従来の厩舎レポをカラーグラフで特集しています。カメラマンがトレセンを駆け回って撮影した有力馬の写真がより鮮明にして躍動感のあるものになっています。また、本誌初登場となる伝説の競馬ライター畠山直毅の『おもひでの名勝負』も読み応えのある力作。関心のある方はぜひ目を通してください。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP