・ジャリスコライト ・メイショウサムソン ・ショウナンタキオン ・グロリアスウィーク ・フサイチジャンク ・ドリームパスポート ・フサイチリシャール ・インテレット ・アドマイヤムーン ・サクラメガワンダー ・キャプテンベガ
おかしい。あきらかにおかしい。さっきから15分以上も半径100メートルぐらいの範囲をぐるぐる回っているようなのだ。地図通りならもういい加減に今夜の宿泊先に到着していいはずなのだが、それらしい建物もなければ看板も見当たらない。しかも、雨まで降ってきているから厄介である。やむなく、改めて東西南北を確認しようと青梅街道まで戻って地図を見直すと方角も合っていれば私自身の判断も間違っていない。もう一度地図を頼りにホテルを探そうと決心しつつ周囲を見渡してみると、なんと私の立っている場所から十数メートル左に○○○ホテルという看板が見えるではないか。地図とその看板を見比べながら数分間はその場に立ち尽くしてしまった。要するにネットで調べた地図が微妙に間違っていたのである。 栗東で買い物に出かけるだけでもショッピングセンターの駐車場で車をどこに置いたか判らなくなる方向音痴の私(1週間前にも車が盗まれたと勘違いして大騒ぎ)にすれば、ややこしい新宿の街なんてまるで巨大な迷路でしかない。東京へ出張する場合はいつもネットで馴染みのホテルを予約するのだが、今回は急きょの出張で時間がなかったため初めてのホテルを利用することになったのだった。場所探しだけでも不安だというのに頼りの地図が間違っていたのだからもう大変。スケジュールが詰まっていたこともあって慌ててチェックインを済ませ、すぐに待ち合わせ場所へ急行した。出張先ではいつもバタバタしている。 知人の競馬ライターと待ち合わせたのは新宿歌舞伎町のとある店。オーナーが30年来の旧友で電話一本で落ち着いた個室を取ってくれる。もちろん店の雰囲気もいい。そんな相手の好意に甘えるだけでなく、すきあらば料金まで値切ろうとするせこい私。次回にその店を利用するときは馬券をビシッと当てて「釣りはいらない。オーナーによろしく」と格好をつけようと頭の中ではいつも考えるのだが、そのプランは一度として実現したことがない。それはともかくとして、なんとか約束の時間に指定場所に到着。突然の雨のなか、相手もビショ濡れになりながらも予定通りに姿を現した。 「年々JRAの売り上げが落ち込み、当然ながら競馬場の入場人員も確実に減少しています。不況という時代背景を考えれば競馬人気の凋落も仕方のないところかもしれません。ダビスタ世代が疑似体験だけで競馬の実体験をスルーしているとか、携帯産業の急成長で若者が経済的に競馬(馬券)に向き合う余裕がなくなっているという声があります。一面的にはそういった指摘も間違いではないでしょう。しかし、競馬マスコミが力不足であるということも残念ながら否定できない事実だと思われます。ディープインパクトが三冠を達成してハーツクライがドバイシーマクラシックを制覇したように、これだけサラブレッドたちが頑張っているにもかかわらず競馬そのものがいっこうに盛り上がらない。その背景には十年一日のごとく単調な報道しかできない競馬マスコミにも問題があるのではないでしょうか。それともうひとつ、競馬の真の魅力をきちんとファンに伝えられるライターの数が少ないこと。これも憂うることだと思うのです」 八海山を飲みながら延々と持論を展開しつつすっかり酩酊してしまった私。このあとは気がつけば沖縄料理店で名物の海葡萄を口に運んでいたが、それからのことはほとんど記憶にない。それでも日付が変わった頃にはなんとかホテルにたどり着いて倒れ込むように就寝。翌日には錦糸町の会社へ無事に顔を出してなんとか打ち合わせを終えた。この日の夜も八丁堀で人と会う予定を組んでいたため、会社を去る際に「八丁堀へはどうやっていくのがいちばん早い?」と尋ねたのが運のつき。「すぐそばに都営○○線の乗り場があるから、そこで地下鉄に乗って△△駅で乗り換えて××線に乗れば簡単」と聞いてその気になったが、いざその場所に着いてみると何種類もの路線図があって頭は大混乱。結局は時間がないことを理由にタクシーに乗ったが、とても都会では生きていけないと実感した瞬間だった。そして翌日、新幹線の京都駅から在来線に乗り換えて草津線の手原駅に向かうつもりが、気がつけば京都駅で改札から外へ出てしまっていた。この田舎オヤジの間抜けな行動については、あまりにみっともないので誰にも話していない。 サラブレッドは風の薫りと土の匂いで自分の場所が認識できるといわれている。行く先々で道に迷って心身ともに疲れ切ってしまう私のような人間よりは馬の方が方向感覚に秀でているのは間違いない。今度東京に出張するときは馬の背に跨って東海道をのんびり東上しようかと考えているのだが、どうだろうか。
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP