ここ数週間たまっていたストレスがやっと解消した。なにに苛立っていたのか説明すると少々気恥ずかしいのだが、仲間由紀恵ちゃん（なぜかちゃんをつけている）が歌っている携帯電話のＣＭソングの歌詞がさっぱり判らなかったのだ。テレビの画面に再三食らいついてみても「恋の○○○○ー○、ふたり○○ー○、君がいれば○○○○ー○○○」と歌っているその歌詞の○○の部分が解読できない。頭の固さに自分でも嫌になっていたが、ひょんなことからその全容が理解できた。判ってみればなんてことはないのだが、ここまで見る側に関心を持たせたというだけでもこのＣＭは精度が高いと勝手に評価している。とはいっても、理解できなかったのはオジサン族だけで、若者ならいとも容易に歌詞を聴き取れたのかもしれない。

　「恋のダウンロード、ふたりパレード。君がいればレッドカーペット」

　いつ見ても笑ってしまうＣＭがひとつある。場面は会社での昼食前のひとコマと想像しているのだが、中年サラリーマンと若いＯＬとの会話の微妙な感覚の食い違いがおもしろい。

　「課長、いっしょに食べませんか」（若いＯＬが自然な様子で上司に声をかる）
　 「いっしょに？」（相手の真意を探りつつ嬉しそうな表情の中年サラリーマン）
　 「パンと一緒に食べるとおいしいんですよ」（そう薦めながら微笑む若いＯＬ）
　 「ああ、パンとね」（一緒に食べるんじゃないんだと落胆する中年サラリーマン）
　 「…………」（ひとりポツンと立ち尽くす中年サラリーマンの表情に哀愁が漂う）

　カレースープかカレーヌードルなのか肝心のその商品名は記憶していないが、そんなものはどうでもいい。このＣＭを見かけると課長役の中年サラリーマンにいつも感情移入してしまう。寂しげなラストシーンを見るにつけて「誤解させるような物言いはするなよ」と独り言を呟いている私。若い娘から言わせれば「勝手に勘違いしているオジサンの方が悪いのよ」ということになるのだろうが。

　『Photo is』というオノ・ヨーコが出演するＣＭも一部では人気を集めているようだ。オノ・ヨーコといえぱジョン・レノン（ビートルズのメンバー、故人）夫人として知られている女性。夫と映っている数枚の写真を紹介しつつ「Photo is Love」「Photo is Peace」「Photo is Message」といったふうに写真とはなにかを言葉で語っている。フィルム会社であるスポンサー色を必要以上に表面に出さず、それでいてうまく写真文化の素晴らしさを表現している。ＣＭとしてはなかなか優秀な作品だと思うのだが、多少の不満もある。「写真は愛」「写真は平和」「写真はメッセージ」というふうにオノ・ヨーコの言葉をすべて和訳して音声で再生しているのが少々うるさいのだ。あの音声を小さな字幕に置き換えて画面の右下ぐらいに載せればもっとスッキリすると思うのだが、どうだろうか。

　少々マイナーながら私が気に入っているのはLevi's（ジーンズ）のＣＭ。画面にギターを持ったジミヘンドリクスが突然現れて暴れ回るというワイルドなシーンにはいつも引き込まれ、1960年代終盤にフィードバックしたような気になってくる。時代を超えていいものは永遠に受け継がれるという雰囲気の演出も悪くない。もちろん私はいまだにLevi'ｓ党でもある。

　ここまで書いてきてふと思うのはＪＲＡのＣＭの印象の薄さである。Ｇ１の直前にスポットで個々のレースの紹介をしている記憶はあるが、その画面、そのコピーがどんなものだったか、なにひとつ思い出せない。見終えて“ニヤッ”と笑ったり、思わず画面に引きずり込まれるようなもっと魅力のあるＣＭで競馬の愉しさをアピールして欲しいと思うが、なかなかそんな味のあるＣＭにお目にかかれないのが残念だ。

　酔いや睡魔と戦いながら見守ったドバイワールドＣデーの各レース。いきなりゴドルフィンマイル（Ｇ２）を逃げ切ったユートピアに驚き、ハーツクライが勝ったシーマクラシック（Ｇ１）には歓喜した。フラムドパシオンとカネヒキリは手応え十分に好位を追走しながら直線で追い出すと意外に伸びなかったが、それぞれが存在をアピールしていた。野球のＷＢＣでも明らかなように、スポーツの場合はやはりプレイヤーが世界の舞台で結果を出すことこそが最高のＣＭ。今後もハーツクライに続く馬の出現を期待したい。

競馬ブック編集局員　村上和巳


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