・ジャリスコライト ・ニシノアンサー ・モエレフェンリル
・マーブルチーフ ・エルノヴァ ・トウカイトリック ・インティライミ ・アドマイヤフジ ・ストラタジェム
12月24日夜。会社に残って原稿を仕上げていると背後から聞き慣れた懐かしい声が耳に飛び込んできた。つけっぱなしのグリーンチャンネルを振り返って確認するまでもなく、その甲高い声は幹太(カンタ)そのものだった。イブの夜に彼がテレビに登場すること自体がミスマッチだが(笑)、ついつい気になって画面に見入った。それから数分が経過してなぜ彼がテレビ出演しているのかが飲み込めた。『明日のレース分析』という番組の企画でレギュラー解説者の人気投票が行われ、視聴者が選んだ2005年の人気ナンバーワン解説者(関東部門)が弊社美浦所属の吉田幹太だったのである。「読者を感動させるような文章を書きたい」――入社時の挨拶でそんな言葉を口にしていた幹太。屈託のない明るさと決して自分を飾らない素朴さがなんともいえず味わい深いキャラクターだったが、そんな彼ももう35歳。体重が100キロを超えてすっかり風格が出てきたと聞くが、体だけでなく中身も大きくなっているのだろうか。出張で東京に出向くことがあれば一度ぐらいは飯にでも誘いたいが、なにせ名うての大食漢である幹太のこと。馬券でも当てないと経費がかさみそうで怖い。
12月29日夜。梅田から阪急宝塚線に乗って石橋駅で降りた。私が競馬ブックに入社する前に怪しげなROCK喫茶をやっていた話を以前に書いたが、その店は石橋駅から徒歩10分の場所にあった。この日は当時の常連客が石橋に集まっての忘年会。慌しい年末とあって関東在住者の大半は出席できず結局は13名が集まっただけだったが、それでも約30年ぶりに顔を合わせる相手もいて盛り上がった。売れないミュージシャン、自営業者といった正体不明な面々のなかに会社の社長、大学教授、銀行員、サラリーマンが入り混じるまとまりのかけらもない怪しげな集団だったが、そんな場にゲスト参加してくれたのが阪大坂下にある憩食堂のご主人青木鐵彌さん(71歳)。貧乏学生相手に商売抜きの格安でボリュームのある食事を提供し続けて50年になるこのご主人は若い頃の我々の相談相手であり、我が草野球チームの監督をも務めてくれた粋な人物だった。「最近の学生はおとなしすぎてどうもおもろない。みんな無茶しとったけど、アンタらがいた頃が一番楽しかった」という台詞には一同が相好を崩した。社会的地位に差があろうがなかろうが、若いときの力関係がそのまま続くのが旧友同士。途中からは過去の歴史通りに私が場を仕切って喋りまくり、最後は予定通り酔い潰れた。
1月1日。久しぶりに自宅で元旦を迎えた。昨年後半に編集部の若手に虚礼廃止を提案して快諾してもらったので年賀状の数は少し減っていた。しかし、年長の人間やめったに顔を合わせることのない知人たちには従来通り挨拶状として出した。まあ、段階を追って減らしていけばいいかなと考えているが、今年届いた年賀状を順番に眺めていてオヤ?と思った。同じモノが二枚届いているのだ。差し出し人が藤田伸二騎手と知ってついつい笑ってしまった。「同じ年賀状が2枚。間違い探しかなと横に並べて見比べたが、それらしい箇所はみつからなかった。茶目っ気のある彼のことだから、ひよっとすると“今年は去年の二倍は活躍するから見といてや!”というメッセージが込められているのかもしれない」とこのコラムで書いたのが一年前。その昨年は115勝して久々にG1勝ちをも収めた彼。ゲンを担いでいるのかそれとも遊び心なのかは判らないが、今年は怪我に気をつけろよ伸二。それと年間制裁0点への再挑戦、楽しみにしてるぞ。
この編集員通信を書き出して今年で4年目に突入した。昨年あたりからネタ切れの兆候があり、過去の内容とかぶる原稿も徐々に増えてきた。書き終えた段階で見直してみると知見もなければ読み応えもない。“継続は力なり”という言葉もあるが“マンネリは敵”でもある。正直なところもう区切りをつけようかと幾度か考えた。しかし、ある人間のひと言でもう少しだけ頑張ってみようかと気が変わった。そのある人物とは“達ちゃん”こと川合達彦君(元騎手で現在は太宰厩舎所属の調教助手)。「海外で一年間修行しようと渡米したけど、なにもかもうまく運ばずホームシック状態。断念して帰ろうと思ったときに知り合いが編集員通信でお前のこと取り上げてるぞって教えてくれたんです。ひとりぽっちのアメリカであの原稿を読んでどれだけ勇気づけられたか。だからこそ耐えて一年間過ごせたんです。これからも頑張ってください」なんて嬉しい言葉(ほとんどが社交辞令だろうに)をかけられてすっかりその気になってしまった単純な私(苦笑)。まあ、力まず流さずマイペースで続けられるところまで続けてみようと考えている。
最後に達ちゃんとの会話で暴露された私のアホな思考回路をひとつ披露しておしまいにするが、この会話を思い出すたびにいまでも恥ずかしくなる。もちろん、誰にも話してはいない。
村上 「達ちゃんが修行先でネットの私の原稿を読んでくれてるなんて考えてもみなかった。聞いていればもう少し格好よく書いてあげたのに。でも、知らなかったな、編集員通信がアメリカで読めるなんて」
達ちゃん 「だから、インターネットなんですけど……(失笑)」
競馬ブック編集局員 村上和巳 ◆競馬道Onlineからのお知らせ◆ このコラムが本になりました。 「トレセン発 馬も泣くほど、イイ話」⇒東邦出版HP