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暗闇のなかに突然目覚ましの音が鳴り響く。朦朧とした意識のままにベルを止めて時間を確認する。午前3時40分だ。何故こんな真夜中に目覚ましが鳴るのか自分で理由が判らない。一旦はベッドから起き上がってみたが、頭が限りなく重く猛烈に眠い。ふたたび横になって眠りかけた瞬間にある記憶が脳裏に浮かぶ。そうだ、今日はトレセンに行く日だった!
春に入社した新人4人のうち、足立雅樹と白石貴寛が今日から4週間限定で臨時の厩舎取材班となるのだ。「やるだけやってみますけど自信はありません」と緊張気味の足立と「心配で夜もろくに眠れません」と泣く白石。入念に調教して送り出した二人だから実戦では結果を出すだろうと思いつつ、新人育成係の私としては彼らを放置したまま寝ているわけにもいかない。
トレセンに到着したのは午前4時30分。まだ薄暗く、厩舎の周りを運動している馬たちの姿が時として闇に紛れる。気温は22度。考えていたよりも涼しく凌ぎやすい。馬場が開場する5時から1時間は3階の記者席で調教を見ることに専念したが、CWコースの追い切りラッシュは相変わらず。途切れることなく延々と併せ馬が続く。双眼鏡でゼッケンを確認して声高に読み上げる者、ストップウォッチ片手に時計を採る者、脚いろをたしかめる者。息つく暇もなく時間が過ぎ去る。調教班というのも大変な仕事だ。
午前6時になると一旦、調教がストップ。荒れた馬場を整備するためのハロータイムとなる。大半の調教師は前半に追い切った管理馬の様子をチェックしに厩舎へ戻り、残った人物は2階の調教師席でひと息入れる。騎手や調教助手といった乗り手は1階の控え室か自身の所属厩舎で束の間の休息をとる。調教開始から1時間後の6時からは調教師席や乗り手の控え室への出入りが許可され、ここから厩舎取材班の本格的な活動がスタートするのだ。そしてハロー掛けが終わると調教が再開され、人も馬もあわただしく動き出す。
トレセン名物の時計台の数字が午前8時を示す頃には気温が28度にまで上昇。湿度もジンワリ増してきて体中がベタつき、不快指数もグンと高まる。馬場から引き上げてくる馬たちの腹からは汗がしたたり落ち、寄り添う厩務員たちのシャツも汗まみれだが、それぞれの表情には活気がある。夏を快適に過ごすには、やはり体を動かして汗をかいてこそなのだ。
足立と白石のルーキーとしての初仕事も無事に終了した。4週間この調子で頑張れと願う。しかし、彼らの4週間が終わると今度は巨漢の新人坂井直樹が同様の仕事にチャレンジだ。ヤツの動向も気になれば、もうひとりの新人で函館出張中の生井孝行の様子も気にかかる。新人育成係として、この夏は例年ほど酔い潰れてばかりはいられそうにない。
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競馬ブック編集局員 村上和巳
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