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編集員通信
競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント






 

◆“酒”

  鍋をつつきながら徳利で熱燗をチビチビ。寒さは厳しいが、日本酒党にはたまらない季節だ。若い頃から友人、知人が酒豪だらけの環境で年齢を経てきた私だが、酒が飲めるようになるまでには時間がかかった。お猪口一杯、ビールひと口で昔の郵便ポストみたいに真っ赤になり、すぐ気分が悪くなったり、頭痛がしたり。酒を受け付けない体質だった。しかし、悪友たちに鍛えられ、調教に調教を重ねた結果、ある程度はアルコールを受けつける体になった。

 それでも、20代半ばまではひとりで酒を飲むことなんてまずはなかった。酒そのものをうまいと思わなかった。ところが、この業界に入ってそんな生活様式が一変した。水曜午後に厩舎へ顔を出すと、いたるところで『勝ち祝い』と称する宴会が繰り広げられている。前週の土日に勝ち馬を出した厩舎のスタッフが、大仲と呼ばれる部屋に集まって内輪で祝勝会をするのだ。そんな場面に出くわすと「エエとこにきたな兄ちゃん、まずは一杯やらんかい」ではじまり「取材?そんなもんあとや。それより、オレの酒飲まれへんのか」とくる。飲むと頭が混乱して仕事にならないために極力避けて回ったが、完璧な逃げ切りは不可能。時としてつかまり、最終的には意識を失った。

 『勝ち祝い』のほかにも、春には『花見』があって、秋には『運動会』が。そして、出張先では『安着祝い』というものもある。当然のことながら、大きなレースを勝つと正式な祝賀パーティーが待っている。そのせいか競馬関係者には酒豪が多い。夏場に長期出張に行くと、そんな彼らと晩飯を食いに出掛けることも少なくなかった。そんなとき、いちばん怖かったのがジョッキーたち。飲みだすと止まらないのだ。
 
 朝5時に調教がはじまる夏場などは、深夜になっても帰ろうとしない。「いまから寮へ帰って寝ると起きられへん。よし、今日は朝まで飲むぞ」なんて結果になったことも二度や三度ではない。函館、札幌、小倉、新潟と、いろんな街でそんな経験をした。へべれけになってやっと競馬場に帰り着き、ダウン寸前の私に対して、何事もなかったように馬に飛び乗り、次々と朝の調教を消化する彼ら。日頃の鍛錬の差といえばそれまでだが、その体力と精神力には頭が下がった。

 最近のトレセンでは以前ほど「勝ち祝い」を見かけなくなった。関係者の世代交代が進み、意識や習慣も変化しているのだろう。私はというと週の大半は晩酌をするようになった。いまでも酒そのものがうまいという実感はないが、アルコールが体中に広がるときの独特の感覚が心地よくなってしまった。そろそろこの原稿も区切りがつくので、このあとは競馬新聞片手にチビチビやることになりそうだ。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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