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競馬ブック編集員が気になる事柄にコメント
久しぶりのライヴ






 

◆“久しぶりのライヴ”

 レザージャケットにブラックジーン。この日のために4カ月も床屋に行かず、伸ばし続けた怪しげなロン毛。これに派手なウエスタンブーツが加わり、もう怖いものなし。「決まったぜ!」そう独り言をつぶやいて家を出たが、一歩外へ出ると隣近所の人間たちのいぶかしげな視線。思わず伏目がちになって足早に駅へ。中年ロックファンはいつも孤独だ。

 JRを乗り継いで目的地についたのは午後6時を少し回った頃。4年ぶりにやってきた大阪城ホールは例によって人、人、人で埋め尽くされていた。予定時間よりも15分ほど遅れてのオープニング。ステージに白髪混じりのE・Cが登場すると割れんばかりの大歓声。12000人の観衆が瞬時にして一人の中年男の指先に神経を集中。そのギターワークとヴォーカルにのめり込む。

 私がEを知ったのは1960年代後半、もう30年以上も前のことになる。当時はいまからすれば信じられないほど多感でピュアな若者だった私。天才ギタリストとしてその才能を万人に認められながら、親友の妻を愛してしまったり、薬物に溺れて廃人寸前になったり。そんな屈折した彼の生き様の虜になってしまっていた。

 ライヴは丸々2時間続いた。私より6歳上、もうすぐ60歳に手が届こうかというEにとって決して短い時間ではなかったはずだが、時には流しつつもそれなりにステージを完結させた。初来日した1974年当時は頬がこけて目が落ち込み、見るからに薬物中毒かアル中といった雰囲気を漂わせていた。ステージに立つのがやっとで、曲と曲の合い間には倒れそうになりつつ胃にバーボンを流し込んでいたもの。よくここまで立ち直ったものだとしみじみ思う。

 エンディングは1970年のヒット曲『LAYLA』。場内は老若男女を問わずオールスタンディングで最高潮。しかし、アンコールの2曲目『OverTheRainbow』を歌いだしたときの手拍子。あれには苛立った。囁くように弾き語るEの姿と、それにはまったく不似合いな手拍子。思わずG1レース発走の直前に湧き起こる手拍子を連想した。自分たちが舞い上がりたいのならそれはそれで好きにすればいいが、その姿には手拍子に戸惑う馬たちに対する気遣いが微塵も感じられない。そんな一部の競馬ファンの無神経さを思い出した。

 曲調とのミスマッチに気づいたのか『OverTheRainbow』の後半になってようやく手拍子が止まり、静寂のなかにEの歌声が響き渡った。主役がいてこそのライヴ。こうでなくちゃいけない。ライヴの終了とともに中年ロックファンのハイテンションな一日は終わりを告げた。その夜は大阪のホテルに泊まって旧友たちと宴会。泥酔して記憶を失ったのは言うまでもない。


競馬ブック編集局員 村上和巳


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