5月22日、木曜日の午後。オークス出走馬とその枠順がJRAから発表された。直前に、ラスト2議席を争う4頭の抽選が行なわれ、コインオブスターとアイシースズカが滑り込みで出走権を得た。その抽選結果が発表された瞬間、「出走させてやりたかったな」という声が続出した。話題の主は沖芳夫厩舎所属のベストアルバム(メジロライアン×ベストダンシング)で、私自身も「抽選で入ればこの馬」と思っていた一頭だった。
今から11年前の秋。厩舎取材をしていた私は、一頭の鹿毛馬に出会った。見るからに女馬らしいその細手の馬には、いま思い出しても言葉でうまく表現できないのだが、私を引き付けるなにかがあった。「気に入りました? 名前はベストダンシング。雰囲気のある馬ですよ」−そう語りかけてきたのは、赤いヘルメットをかぶったあどけなさが残る若者だった。
92年の12月にデビューした細身ながらセンスのいい走りをするベストダンシングは、新馬、特別を難なく連勝。その後、休養をはさんで夏の新潟900万特別で3連勝を達成。能力の高さを証明した。そして秋にはエリザベス女王杯(現在の秋華賞にあたるレース)でG1に初挑戦。ホクトベガ、ノースフライト、ベガといった強敵に挑み、見事5着に入線した。
そして、2003年。11年前は赤帽(騎手候補生)だった渡辺薫彦騎手を背に、そのベストダンシングの娘ベストアルバムは5戦2勝の成績を残してオークスに挑戦したが、出走の夢は抽選で消えた。
オークスの枠順が決まった翌朝にアイシースズカが感冒で取り消したが、繊細なサラブレッドにアクシデントはつきもの。それはそれで仕方ないが、出走馬を発表した段階でJRAとしては補欠出走馬を決めておくべきだった。天候、馬場といった不確定要素がそれなりに影響するのが競馬。木曜日の段階で枠順まで決める必要はない。金曜朝までに回避する馬が出た場合、補欠扱いにした数頭から、出走意志のある馬を優先順位どおり繰り上げて出走させればいい。そうすれば、このベストアルバム(もしくはミルフィオリ)が出走できたのだ。競走馬が生涯唯一度しか出走できないクラシックぐらいは、そういった配慮があっていいのではないか。
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