「本会の施行する競馬において、申請締め切り日に通算勝利度数が1,000以上の騎乗成績を収め、かつ、中央競馬における就業期間が20年以上の騎手経験者にあっては、学力及び技術に関する(第一次の)筆記試験を免除する」
これが所謂、調教師第一次試験免除に関するJRAの規定である。29年間にわたってトップジョッキーとして活躍した河内洋は、この制度を利用して調教師試験を受験、合格した。それはそれでいいが、気になることがひとつ。河内が完全燃焼した上で現役を引退したのかどうかなのである。
上述の一次試験免除の規定は、昨年度までで廃止となった。この規定を利用して調教師になった元騎手たちの成績が概して振るわないこと、騎手のフリー化が進み、1000勝をクリアする騎手が激増したことと、廃止については他にも様々な理由が考えられる。騎手と調教師というのは、異なった職種であり、異なった才能を要求されるというのも事実である。
判ってはいても、永年体を張り続けた騎手たち、ファンの夢を背に戦い続けた騎手たちにチャンスを与えてやりたいと思う。「朝は調教に跨り、午後からは体力トレーニングでジム通い。土日はレースで年中どこかへ移動。それでも、先を考えて調教師試験用の勉強をと思っても、夜、机に向かうと、活字がボヤけて見えん」―そう嘆いていたあるベテラン騎手の言葉を思い出す。
最近は大学を出てから競馬学校に入り、それからトレセンに就業するパターンが多い。そんな調教助手や調教厩務員たちの苦労も判る。しかし、こと学科試験について考えると、騎手たちはあらゆる面で不利だ。だからといって、殊更に彼らを保護する気はない。ただ、1000勝のハードルを2000勝と高く設定(JRA史上2000勝達成騎手は僅か4人)してでも、一次試験免除の規定は残しておくべきではなかったか。中学を出て競馬学校に入り、自分の人生すべてを競馬に注いできた彼ら。そんな馬の匂いが染みついた人間たちに可能性を残して欲しいのだ。
「あと2年は乗りたかったが、一次免除の規定がなくなるので、やむなく区切りをつけた」―人の心のなかは判らないが、もし、河内がそう考えて引退したなら、JRAの決断はあまりに残酷だ。
(文中敬称略)
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